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身の内に猛犬を飼ひ髪洗ふ 佐々木靖子

今回の兼題「猛犬」には手を焼いた。「猛」の一字が入ることで、イメージが濃くなりすぎるのである。この句では心の状態を比喩的に表現して、実体がないだけに無理がない。女性が髪を洗うときの心情はひたすらなものがあるのであろうと思う。

猛犬のやうな母なり氷水 武井伸子
猛犬と並んで秋の海を見る 〃

一句目、比喩的に書いているが、一見不適切のような比喩の中に、母の持つわが子への強い愛情がみえるし、氷水を前に母と子の懐かしい時間が蘇る。二句目、「猛犬」であるだけに、殊更秋の海の豊かな感じに作者が満たされていることがわかる。

猛犬の背中にとまる赤とんぼ 中島外男

飛んでいた赤とんぼがふと犬の背中に止まり、やがて羽を納める。われわれはこのような、ごく当たり前のような風景を切り取ることから始めなければならないのだと気づかされる。

猛犬年生まれの従姉妹つり忍 中西ひろ美

意表を突く表現に、句会で出されたとき最初あっけにとられたが、しだいに面白味が現れてきた。
犬という動物の意識は消えて人間の作り上げてきた習慣が、釣り忍という床しいものの存在を得て生き生きと伝わってくる。

白桃や猛犬床に寝転がる 服部さやか

この句の主体は白桃であり、白桃の魅力を支えるものとして、猛犬が利用されている感じだ。しかもそれが不自然さを感じさせないからみごと。

猛犬とかまきりを連れ旅に出る 浜岡紀子

ここでは季語の意識が殆ど薄れている。かまきりは季語としてではなく、猛犬の「猛」を共に持っている仲間として存在させられている。作者の心の中の景として興味深い。

猛犬の遠吠え止みし夏の月 宮本郁江

犬の遠吠えは狼の声を連想させる。猛犬であることの淋しさが遠吠えになるのだろうか。静かになった空にぽっかりと月が上る。生き物のかなしみが伝わってくる。

猛犬も現の証拠も軒下に 岩淵喜代子

昔は下痢をしたときなど、現の証拠を煎じて飲まされたものだ。いつでも使えるように軒下に干してあるのだろう。夏には可愛らしい花が咲くフウロソウ科の植物である。猛犬も現の証拠も家族を守っているのである。

梨の芯まで猛犬は食べてゐた 木津直人

妙に現実感のある句である。果物を犬が食べるというところ、しかも梨の芯であるところに、作者の体験が猛犬という題を得て蘇ってきたのであろうか。


帰る雁猛犬の空去りにけり兄部 千達
ペチカ燃ゆ居間には入れぬ猛犬は兄部 千達
猛犬の遙か遠くの笑ふ山兄部 千達
銀河の夜猛犬の目に映りをり兄部 千達
葛嵐猛犬の鼻濡れてをり兄部 千達
猛犬のシール貼られし薔薇の家小塩 正子
どの家も猛犬ゐるらし鳳仙花小塩 正子
炎熱や猛犬のごと吠えたかり小塩 正子
猛犬の恐れてゐたり揚花火小塩 正子
愛犬が猛犬と化す花火かな小塩 正子
猛犬が猛犬避ける秋の土手西方 来人
七五三猛犬ぴんと耳を立て西方 来人
猛犬の響く遠吠え二日月西方 来人
猛犬の鳴き声流す夏館西方 来人
猛犬に甘え上手な秋子猫西方 来人
猛犬や一途に追ひし蜃気楼佐々木靖子
身の内に猛犬を飼ひ髪洗ふ佐々木靖子
猛犬とひとは言ひけりシャワー浴ぶ佐々木靖子
猛犬と言はれし彼の日桐一葉佐々木靖子
猛犬のじつと見てゐる赤とんぼ佐々木靖子
猛犬の道を辿れば枯野まで島崎 正彦
猛犬の虚空に吠ゆる花吹雪島崎 正彦
母ありし猛犬注意藤の家島崎 正彦
猛犬のうつぶしている大暑かな島崎 正彦
老いるとも末枯れはせず猛犬は島崎 正彦
猛犬ソロ雷雨雷鳴浴びてをり志村 万香
猛犬も毛並み整へゐる残暑志村 万香
猛犬や眩しく夏の真ん中に志村 万香
夏最中猛犬にして老いにけり志村 万香
猛犬やサイレンの声秋の声志村 万香
猛犬の吠えて猛暑の極まれり末永 朱胤
猛犬に追はるる夢の熱帯夜末永 朱胤
猛犬の昼寝一塊の闇となり末永 朱胤
猛犬の家塀高き晩夏かな末永 朱胤
猛犬ずつと秋だつたかのやうに末永 朱胤
声嗄るるまで猛犬吠ゆる青岬鈴木まさゑ
猛犬に仔犬の昔夏蓬鈴木まさゑ
猛犬のごとき溽暑の街饐ゆる鈴木まさゑ
帰省子の猛犬めきし面構へ鈴木まさゑ
猛犬を一語に制しサングラス鈴木まさゑ
猛犬のごとき西日に逃げ場なく高橋 寛治
猛犬の群れ引き連れて夏来る高橋 寛治
猛犬の鼻先に来る秋の暮高橋 寛治
猛犬の風となるかな秋澄みて高橋 寛治
柿のへた猛犬の負ふ氏素性高橋 寛治
猛犬のゐる家らしき枇杷熟るる武井 伸子
猛犬のやうな母なり氷水武井 伸子
猛犬のごとく押し寄せ盆の波武井 伸子
猛犬と並んで秋の海を見る武井 伸子
猛犬の呼ばれすぐ来る秋の山武井 伸子
イーゼル畳む画家と猛犬晩夏光谷原恵理子
猛犬の吠えたる日向青蜥蜴谷原恵理子
緑蔭にペタリと薄き秋田犬谷原恵理子
猛犬に見立てし石に大夕焼谷原恵理子
妻籠も奥の奥猛犬に秋の風谷原恵理子
猛犬の深きねむりに盆の月近本セツ子
猛犬を福木の影に夏休み近本セツ子
簗番に猛犬に刻過ぎゆきぬ近本セツ子
ダンディーの連れし猛犬滝のまへ近本セツ子
猛犬のこゑのくぐもる芒山近本セツ子
あの角を曲がれば猛犬大西日辻村 麻乃
無人家の猛犬札に晩夏光辻村 麻乃
ケルベロスの守りし戸建熱帯夜辻村 麻乃
眷属の猛犬吠ゆる秋社辻村 麻乃
猛犬の如き女や忘れ扇 辻村 麻乃
猛犬と思ひし一夜あれも秋同前悠久子
猛犬の噛みしにあらず破れ芭蕉同前悠久子
猛犬舌戦秋の日俳句甲子園同前悠久子
猛犬は土佐犬のこと鰯雲同前悠久子
あの夏のプードルわたしに猛犬で同前悠久子
繋がれし猛犬を打つ雪しまき豊田 静世
猛犬と蚊一匹の小競り合ひ豊田 静世
猛犬の下り来るごとし御柱豊田 静世
竜淵に潜むや猛犬の青眼豊田 静世
猛犬の忠犬となり橇を曳く豊田 静世
土を嗅ぐ黒き猛犬夏出水中﨑 啓祐
猛犬の越えなんとする花茨中﨑 啓祐
夏盛ん猛犬吠ゆるトタン塀中﨑 啓祐
青芒猛犬を引くジャコメッティ中﨑 啓祐
夏草や猛犬逝きし庭覆ふ中﨑 啓祐
紫陽花や猛犬避けて郵便夫中島 外男
猛犬の背中にとまる赤とんぼ中島 外男
猛犬の小屋から続く蟻の列中島 外男
ひぐらしや猛犬眠る路地の奥中島 外男
猛犬の小屋ごと覆ふ凌霄花中島 外男
猛犬年生まれの従姉妹つり忍中西ひろ美
猛犬も浮草も棲む町はづれ中西ひろ美
猛犬や土師器も耳を付けてゐて中西ひろ美
立秋の猛犬の目がややうるむ中西ひろ美
なぐさめに来る猛犬の月夜かな中西ひろ美
炎帝の猛犬となり立ち上がる西田もとつぐ
猛犬の五体投地の大昼寝西田もとつぐ
闘犬や龍馬の像の懐手西田もとつぐ
猛犬の仔への小さき乳房抱く西田もとつぐ
金輪際放さぬ犬や闘犬会西田もとつぐ
白桃や猛犬床に寝転がる服部さやか
猛犬の声甲高し野分あと服部さやか
夏館猛犬今にも飛び出しさう服部さやか
灯火親しむ猛犬の眠りこけ服部さやか
猛犬の輪郭なぞる今日の月服部さやか
猛犬の眠りのなかへ夏の月浜岡 紀子
身のうちの猛犬さわぐ熱帯夜浜岡 紀子
猛犬のごとき漢とかき氷浜岡 紀子
猛犬のしづか蛍のくらがりに浜岡 紀子
猛犬とかまきりを連れ旅に出る浜岡 紀子
猛犬の牙濡れてゐる青葉闇浜田はるみ
ひまはりの前や猛犬寝ねられず浜田はるみ
猛犬も老犬となり冷し瓜浜田はるみ
猛犬の鼻先いういうと毛虫浜田はるみ
猛犬の頭上鬼の子ぶら下がる浜田はるみ
猛犬に晩年のあり万緑裡佛川 布村
猛犬と対峙してゐる羽抜鶏佛川 布村
猛犬の尾に夕焼けの集まりぬ佛川 布村
猛犬十頭早稲の香に走り出す佛川 布村
猛犬の牙をあらはに稲光佛川 布村
猛犬の寝息の届く栗の花牧野 洋子
猛犬の瞳の中の夏の月牧野 洋子
夏怒涛猛犬の哭くばかりなり牧野 洋子
猛犬の眠りを誘ふねむの花牧野 洋子
花合歓の下猛犬の深眠り牧野 洋子
猛犬の檻を横目に毛虫這ふ宮本 郁江
猛犬の微かな寝息蚊遺香宮本 郁江
猛犬の遠吠え止みし夏の月宮本 郁江
猛犬の眠りし闇や遠花火宮本 郁江
猛犬の檻に七夕飾りけり   宮本 郁江
猛犬の化身なるかな蓮開く村瀬八千代
猛犬の飲みこんでゆく猛暑かな村瀬八千代
猛犬の見つめてゐたり祭髪村瀬八千代
秋夜風猛犬ゆるり瞼あぐ村瀬八千代
猛犬に愁思半分渡しけり村瀬八千代
猛犬の檻の奥まで夕焼けて山内美代子
猛犬の涎たらりと油照り山内美代子
猛犬の首に太綱落葉道山内美代子
子ら騒ぐ猛犬唸る熱風裡山内美代子
猛犬の檻は静かやそぞろ寒山内美代子
猛犬やそろりと昼の南風山下 添子
猛犬を涼風撫でて過ぎゆけり山下 添子
猛犬の主に従順梅雨の月山下 添子
猛犬に留守を頼みし梅雨晴間山下 添子
猛犬の今は昔に枯野ゆく山下 添子
初蝶の猛犬の背に止まりたる和智 安江
花合歓の揺れて猛犬鎮まりぬ和智 安江
猛犬に斧振り上げていぼむしり和智 安江
狐狩り猛犬森へ消えにけり和智 安江
放たれて猛犬ましろ雪真白和智 安江
猛犬の古傷痛む梅雨深し浅見  百
猛犬の結界守る仁王立浅見  百
猛犬の二つのまなこ蛍追ふ浅見  百
猛犬の苛立ちはじむ台風に浅見  百
猛犬に狩猟解禁の秋が来る浅見  百
猛犬の眠る間に咲く烏瓜あべあつこ
猛犬も猛者も簾も古りにけりあべあつこ
猛犬の太き首輪や濃紫陽花あべあつこ
猛犬とぶつかる視線氷菓食むあべあつこ
猛犬と童女の狭間ダリア咲くあべあつこ
猛犬と牛がそこらにまづ一歩阿部 暁子
迷ひ路地じんわり迫りくる猛犬阿部 暁子
猛犬の鼻の先にも酷暑かな阿部 暁子
猛犬の暴れるままに熱帯夜阿部 暁子
雷鳴や我が猛犬を飼ひ馴らす阿部 暁子
猛犬のゐる洋館のカンナかな新木 孝介
天高く猛犬の鼻濡れてゐる新木 孝介
猛犬の黄葉の庭へ放たるる新木 孝介
猛犬と呼ばれしことも鵙の贄新木 孝介
猛犬の繋がれてゐる冬支度新木 孝介
猛犬の耳ピクピクと遠花火五十嵐孝子
父の日や猛犬注意の木戸開けて五十嵐孝子
猛犬は老犬になり夏椿五十嵐孝子
炎昼や猛犬の腹うねりゐる五十嵐孝子
猛犬と言はれ続けて秋深し五十嵐孝子
猛犬も現の証拠も軒下に岩淵喜代子
麦秋の猛犬を飼ふ修道院岩淵喜代子
猛犬もときに甘えて夏至白夜岩淵喜代子
猛犬の日がな風鈴聴きゐる岩淵喜代子
猛犬の紛るる稲田明りかな岩淵喜代子
猛犬と注意書きあり梅雨の門宇陀 草子
猛犬の檻にチワワや梅雨の家宇陀 草子
猛犬につづきてくぐる茅の輪かな宇陀 草子
へくそ葛咲き猛犬の檻の錆宇陀 草子
猛犬の老いても猛し炎天下宇陀 草子
猛犬も首うなだれる炎暑かな及川 希子
猛犬も線香花火に後ずさり及川 希子
猛犬の主は不在大西日及川 希子
猛犬の檻は錆びたり涼新た及川 希子
猛犬も老犬になり桐一葉及川 希子
猛犬の小屋は猛暑の坩堝なる大豆生田伴子
猛犬の今従順に夕涼し大豆生田伴子
八月の雨猛犬にして忠犬大豆生田伴子
猛犬の眠るや月に照らされて大豆生田伴子
秋愁のあるや猛犬遠吠えす大豆生田伴子
猛犬の乗り移るかに西瓜食ぶ岡本 恵子
渺々と猛犬吼ゆる踊りの輪岡本 恵子
猛犬の大群のやう滝飛沫岡本 恵子
万緑や猛犬の舌うす赤き岡本 恵子
猛犬の檻覗きこむ白日傘岡本 恵子
猛犬と木札のかかり沙羅の家尾崎 淳子
猛犬の脛の擦り傷夏銀河尾崎 淳子
猛犬の尾の波打てる夕野分尾崎 淳子
猛犬の留守居をしたる盆の家尾崎 淳子
猛犬の見上げてをりぬ流れ星尾崎 淳子
猛犬の小屋に葦簀を立てにけり鬼武 孝江
猛犬の昼寝優しい息を吐く鬼武 孝江
猛犬の昼寝ピクピク後ろ足鬼武 孝江
猛犬の口からポロリとプチトマト鬼武 孝江
猛犬の手綱を寄せる稲光鬼武 孝江
水番の椅子に男と猛犬と河邉幸行子
猛犬は土間の湿りへ夏暖簾河邉幸行子
鋭き笛に猛犬の伏す草いきれ河邉幸行子
青葉闇猛犬ながら従ひ来河邉幸行子
猛犬の薄目してゐる日雷河邉幸行子
昼顔や猛犬のゐる角の家川村 研治
猛暑猛犬騙し絵になつてゐる川村 研治
シーサーとなりし猛犬雲の峰川村 研治
猛犬をあそばせてやる花野かな川村 研治
月白や猛犬は猛犬として川村 研治
三つ首の猛犬がゐて炎暑かな木佐 梨乃
夏草に隠れる「猛犬注意」なり木佐 梨乃
猛犬の看板錆びて日の盛り木佐 梨乃
猛犬のごときスコール音を聴く木佐 梨乃
心意気だけは猛犬ソーダ飲む木佐 梨乃
猛犬を昔語りに海月食む木津 直人
梨の芯まで猛犬は食べてゐた木津 直人
月への旅猛犬なれどほそき脚木津 直人
さやけしや猛犬の骨土の中木津 直人
猛犬のはるかに吠えて時化の海木津 直人
猛犬のいかづち怖れ身を噛みぬ栗原 良子
蟷螂に歯を剥き猛犬にやありけむ栗原 良子
猛犬の十薬の野に捨てらるる栗原 良子
猛犬と呼ばふ男や修司の忌栗原 良子
猛犬の耳立て睡る今朝の秋栗原 良子
涼風に猛犬直と眠りをり黒田 靖子
向日葵に向かひて吠ゆる猛犬よ黒田 靖子
蝶を追ひ猛犬じやれる土手の道黒田 靖子
猛犬のごとき極暑や直眠る黒田 靖子
猛犬と子犬が散歩豆の花黒田 靖子