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凡人とは特にすぐれたところのない普通の人、と広辞苑にはある。しかし、「能ある鷹は爪をかくす」ということばもあるから、世に順応しているふうに見える人、ということにもなるのだろう。

凡人は土筆のやうに立ち上がる 川村研治

 たかだか、十五センチか二十センチしかない土筆は、それを探しているときにしか目に入らない。それでも、土筆だと認識しはじめるとつぎつぎと目に飛び込んでくる。どれも、律儀にすっくと立ち上がって、その存在を際立たせている。まるで、そうすることが土筆の姿だとでもいうように。
掲出句、(凡人は土筆のやうに)と呈示されると、自ずと土筆と人間を重ね合わせてしまう。しかも、棒立ちのなんの計らいもない立ち姿を。

凡人は金魚掬ひて飼ひ始む 兄部千達

 夜店で金魚掬いをして、多くの金魚を得たのかもしれない。金魚を掬うことしか考えていなかったので、そのあと、金魚を飼うには金魚鉢が必要で、毎日餌をやらなければならないことにも気が付いただろう。(金魚掬ひて飼ひ始む)には、これから始まる凡人の物語がほの見えて、なんだか楽しくなってくる。

凡人でありし日の父葱坊主 辻村麻乃

 どんな偉大な父であっても、子供にとっての父親像は、大きな背中に負ぶわれたことや、手をつないで散歩に出かけた思い出なのである。葱坊主もそんな折の父が教えてくれたものかもしれない。凡人でない父岡田隆彦は初期には妻である岡田史乃さんの賛歌『史乃命』を発表、晩年は娘である辻村麻乃を詠った『時に岸なし』を上梓した。

シャボン玉凡人の夢ふくれけり 中﨑啓祐

 人に問われれば、誰もが己を凡人というかもしれない。真実そう思っていても、シャボン玉を吹けば、自ずと大きなシャボン玉を作りたいと願い、その願いの通りにおおきく膨らめば、それが今日の喜びになる。ここで語られている凡人は、いちばん素直にあるがままに生きている人間なのだろうと思う。その凡人とシャボン玉の取り合わせによって、凡人は一段と清潔に、シャボン玉は、いよいよ虹色を輝かせている。

凡人になついてゐたる羽抜鶏 浜岡紀子

 鳥は冬羽から夏羽へといつの間にか抜け替わるが、中でも鶏は抜け落ちた羽が整うのに日数を要する。その生え揃うまでのみすぼらしい姿を羽抜鶏と呼ぶ。ここでは何気ない(なついてゐたる)の措辞の物語るものは多い。凡人ということばによって、羽抜鶏が自分の同類のように思って追い掛けているかのような滑稽感が表出された。

凡人は世の真ん中や花大根 浜田はるみ

 作者は思想を表現したつもりもないのかもしれないが、(凡人は世の真ん中)と詠えば、それはあきらかに主張になるのである。たしかに、世の中は(凡人である)と名乗る人ばかりで成り立っているのである。花大根の楚々とした紫色が、凡庸こそが生き方の基本なのだと言っているようでもある。

天才も凡人もゐる金魚かな 宮本郁江

 金魚にも天才や凡人がいるという発想を面白い。そういう思いで金魚の群を眺めやると、金魚の世界がなおさらにぎやかになる。ふとふり返ってみれば、人間を人間以外の外側の生き物たちはどんなふうに見極めるのだろうか。

居士大姉なれども凡人青嵐 岡本恵子

 居士とか大姉は亡くなってからつけられる一般的な戒名である。作者はなんか偉そうな名前が付けられたものだと、葬式の場で思っていたのかもしれない。そんな大仰な戒名が付いてはいるが、生前はみんな凡人だったのだが、と。シニカルな中の可笑しみはまさに俳諧である。

郭公も凡人も知る明日かな 志村万香

(郭公も凡人も知る明日)とは、多分明日あるということは誰でも知っている、という意味ではないかと思っている。この一気呵成な表現によって、生きとし生けるもののすべてが癒されるのである。この措辞を見つけただけで、掲出句は詩の世界を作りあげている。


予選句

凡人は土筆のやうに立ち上がる川村 研治
凡人のあとさきに降る桜蕊川村 研治
凡人に蘇鉄の花の大きかり川村 研治
風船をつかむ凡人橋の上川村 研治
凡人に螢が止まる夕曇り川村 研治
凡人の岡目八目雲の峰木佐 梨乃
凡人と悟れぬ若さ五月富士木佐 梨乃
偉大なる凡人となれポプラの木木佐 梨乃
蓼の虫オマエ凡人オレ天才木佐 梨乃
茸描く大木凡人の髪のよな木佐 梨乃
凡人に水羊羹のおもしろさ木津直人
凡人の耳二つ歩荷道木津直人
凡人の頭の位置や草いきれ木津直人
蜥蜴追ふ凡人の威を守りつつ木津直人
地震すぎて皆凡人の夏衣木津直人
凡人の大挙襲来谷若葉栗原 良子
十薬を煎じ凡人生き延ぶや栗原 良子
早目覚め日日草と凡人と栗原 良子
天井にヤモリ鳴くらし凡人屋栗原 良子
凡人の黴雨に倦んで太鼓持ち栗原 良子
好き嫌ひ包まぬ凡人五月晴れ黒田 靖子
凡人や三浦大根抱き帰る黒田 靖子
山茶花や凡人なれば拙守る黒田 靖子
小春日や真面目にふざける凡人よ黒田 靖子
凡人で生きるが清し若葉風黒田 靖子
人は大樹の下で花の雨兄部 千達
凡人は力で参加する祭り兄部 千達
凡人は金魚掬ひて飼ひ始む兄部 千達
凡人は毛虫焼きに熱中する兄部 千達
冷酒や凡人は只黙りゆく兄部 千達
おほかたは凡人なりや花の宴小塩 正子
凡人で何が不服ぞ花吹雪小塩 正子
凡人の限界知りぬ春の夢小塩 正子
凡人のままで一生蓮の花小塩 正子
凡人が凡犬連れて青野ゆく小塩 正子
おほかたは凡人なりや花の宴西方 来人
凡人で何が不服ぞ花吹雪西方 来人
凡人の限界知りぬ春の夢西方 来人
凡人のままで一生蓮の花西方 来人
凡人が凡犬連れて青野ゆく西方 来人
蚕豆や凡人にして古女房佐々木靖子
凡人や咲き揃ひたるチューリップ佐々木靖子
凡人を全うするや夏みかん佐々木靖子
御柱曳く凡人の大音声佐々木靖子
非凡なる凡人黙して種浸す佐々木靖子
凡人に一瞥もせず白鷹は島崎 正彦
凡人の肩には重し春の雨島崎 正彦
凡人に命振る舞ふ紅桜島崎 正彦
ふるさとに凡人集ふ夏祭り島崎 正彦
凡人の溜息知らず夏燕島崎 正彦
踊子草のやうな凡人なればこそ志村 万香
河原這ふ凡人楚々と矢車草志村 万香
凡人と思へば独り船芝居志村 万香
戒名は凡人なりと夏座敷志村 万香
郭公も凡人も知る明日かな志村 万香
凡人の卒業写真に紛れ込む末永 朱胤
をしみなく凡人に降る桜かな末永 朱胤
永き日の凡人に影したがへり末永 朱胤
凡人の窓にも春の灯しかな末永 朱胤
凡人を横目に猫の薄暑かな末永 朱胤
凡人のぞろぞろ歩く花曇鈴木まさゑ
凡人に花見楽しき日曜日鈴木まさゑ
青蛙凡人同士相似たる鈴木まさゑ
凡人の器と言はれ冷奴鈴木まさゑ
空豆や昭和生まれで凡人で鈴木まさゑ
目覚めれば凡人となる麦の秋高橋 寛治
凡人も部分集合菖蒲の湯高橋 寛治
凡人も蚕豆もまた空飛べず高橋 寛治
凡人の打ち揃ひけり花見舟高橋 寛治
凡人の集合論的五月闇高橋 寛治
目覚めれば凡人となる麦の秋武井 伸子
凡人も部分集合菖蒲の湯武井 伸子
凡人も蚕豆もまた空飛べず武井 伸子
凡人の打ち揃ひけり花見舟武井 伸子
凡人の集合論的五月闇武井 伸子
凡人と天才の距離夏座敷谷原恵理子
凡人の器の子にも武者人形谷原恵理子
凡人に忘るる冥加青がへる谷原恵理子
凡人に夢の更新薔薇の庭谷原恵理子
凡人にあらず武蔵の山青葉谷原恵理子
凡人や薔薇のアーチも暮れてをり近本セツ子
草の笛うつらうつらの凡人に近本セツ子
凡人に紫尽くしあやめ咲く近本セツ子
竹皮を脱ぐ凡人の閑居かな近本セツ子
車座に入れば凡人風薫る近本セツ子
凡人や薔薇のアーチも暮れてをり辻村 麻乃
草の笛うつらうつらの凡人に辻村 麻乃
凡人に紫尽くしあやめ咲く辻村 麻乃
竹皮を脱ぐ凡人の閑居かな辻村 麻乃
車座に入れば凡人風薫る辻村 麻乃
糸取女麗し凡人なればなほ同前悠久子
風鈴を掛くる凡人たりし伯父同前悠久子
凡人ののんきさよろし庭に草同前悠久子
非凡さを秘めて凡人夏の富士同前悠久子
凡人と思はざりしは鯉幟同前悠久子
凡人の一合酒や薬の日豊田 静世
凡人の夫婦の暮し心太 豊田 静世
凡人や過去も未来も浮いて来い 豊田 静世
凡人の生は平らか犬ふぐり 豊田 静世
凡人になりし成人蜃気楼 豊田 静世
シャボン玉凡人の夢ふくれをり中﨑 啓祐
凡人の遊子となりて春の雲中﨑 啓祐
凡人の猫抱いてをり春の風中﨑 啓祐
凡人のもんじや焼いてる昭和の日中﨑 啓祐
凡人の綴る自分史八重葎中﨑 啓祐
凡人の生き様ここに蜷の道中島 外男
凡人や波紋の中の残り鴨中島 外男
青き踏む凡人いつも夢求め中島 外男
うららかや寄れば凡人病気自慢中島 外男
凡人や背くらべするねぎ坊主中島 外男
凡人の膝抱いてをり日脚のぶ西田もとつぐ
平凡に妻と寄り添ふゆすらうめ西田もとつぐ
悪人正機は凡夫の救ひ親鸞忌西田もとつぐ
漫画「只野凡児」昭和恐慌潜り抜け西田もとつぐ
凡愚に老ゆ声美しく初鴉西田もとつぐ
逆上がりしても凡人風薫る服部さやか
同窓の凡人同士水羊羹服部さやか
凡人の影の移ろふ夏夕べ服部さやか
凡人の形をなせりハンモック服部さやか
凡人の生まれ変はれば黒揚羽服部さやか
凡人になついてゐたる羽抜鶏浜岡 紀子
気兼ねない凡人どうし冷酒酌む浜岡 紀子
凡人の独り居なれば水を打つ浜岡 紀子
家系図の凡人蛍飛び交ひぬ浜岡 紀子
凡人の記憶きれぎれ合歓の花浜岡 紀子
凡人は世の真ん中や花大根浜田はるみ
凡人のとなり凡人豆の花浜田はるみ
磯巾着眺め凡人ゆれにけり浜田はるみ
凡人の先へ先へと夏つばめ浜田はるみ
凡人を夜に集めて女王花浜田はるみ
凡人や花に誘はれ花の下牧野 洋子
凡人で居るも楽しや青き踏む牧野 洋子
凡人と言へども母の木の芽和へ牧野 洋子
凡人や祭囃子の鳴る方へ牧野 洋子
凡人や高さ違へてつくしんぼ牧野 洋子
凡人の吾にゆかしき涅槃像宮本 郁江
凡人のままでありけり昭和の日宮本 郁江
凡人を吐き出す駅の薄暑かな宮本 郁江
天才も凡人もゐる金魚かな宮本 郁江
凡人のやうな顔して海月浮く宮本 郁江
凡人のままなり白梅散り初むる村瀬八千代
夫婦して凡人なるや青き踏む村瀬八千代
凡人のスローライフや夏鶯村瀬八千代
母の日の凡人ならぬ子の便り村瀬八千代
頂に立つ凡人に若葉風村瀬八千代
凡人のままの余生か花は葉に山内美代子
平凡な人でありたしさくらんぼ山内美代子
凡人てふ老いを重ねてうららかに山内美代子
凡人とて力む自分史夏来たる山内美代子
お花見や凡人同志老い同志山内美代子
凡人のあふるる杜や初詣山下 添子
凡人にメダルのやうな春の月山下 添子
凡人に山ほどの飴四月馬鹿山下 添子
凡人に鳥や樹の声花の声山下 添子
凡人の浮世ごころや日なたぼこ山下 添子
花盛り凡人集ひみな微熱和智 安江
凡人の柩の列に花吹雪和智 安江
薔薇園に凡人の名は見つからず和智 安江
凡人に宇宙は遠し稲の花和智 安江
凡人の輪廻転生草の花和智 安江
凡人や手持無沙汰の金魚飼ふ浅見 百
露地に住み打水かかさず凡人は浅見 百
櫨の花凡人密かに宝くじ浅見 百
凡人も時には妻にビール注ぐ浅見 百
凡人のたまの贅沢新茶かな浅見 百
凡人の玉露に酔うて春の昼あべあつこ
凡人にあはれありけり蜆汁 あべあつこ
凡人の二足歩行や山笑ふ あべあつこ
凡人の凡人訪ふや猫柳 あべあつこ
ポチもまた凡人なりし夕焼空 あべあつこ
凡人を気取るネクタイ花宴阿部 暁子
凡人はひとりゆつくり春の酒阿部 暁子
藤香る夕べ凡人のままひとり阿部 暁子
大人みな凡人なるやこどもの日阿部 暁子
風薫る凡人となり得ぬ親王に阿部 暁子
人の天邪鬼なる五月かな新木 孝介
凡人のサラダのランチ夏はじめ新木 孝介
甚平の凡人くぐる縄暖簾新木 孝介
蚊遣火や凡人めきてほろと酔ふ新木 孝介
凡人の汗拭きながら入国審査新木 孝介
人や桜舞ふ日の塩むすび五十嵐孝子
凡人や来年の花どこでみる五十嵐孝子
凡人やなかなかぬけず春の風邪五十嵐孝子
凡人の部屋整ひし西行忌五十嵐孝子
凡人を貫き通す沙羅の花五十嵐孝子
凡人の右往左往や四月来る石井 圭子
凡人の集ふところや桜咲く石井 圭子
語らへば凡人ばかり桜満つ石井 圭子
桜散り初む凡人の語り過ぎ石井 圭子
凡人も口をぽつかり百千鳥石井 圭子
凡人や夏山河川嗚呼無常伊丹竹野子
凡人や今宵独酌鬼貫忌伊丹竹野子
天晴れや凡人指南蝉丸忌伊丹竹野子
凡人の罹らぬ誇り夏の風邪伊丹竹野子
凡人の非凡談議や遠花火伊丹竹野子
凡人に数へきれない落椿岩淵喜代子
凡人は直立不動花菖蒲岩淵喜代子
凡人を貫き通す端居かな岩淵喜代子
凡人の知る寂しさや菱の花  岩淵喜代子
凡人の作る大きな鏡餅岩淵喜代子
凡人の奇人変人花筵宇陀 草子
凡人の貌して見上ぐ桜かな宇陀 草子
鳥雲に入る凡人の下駄ちびて宇陀 草子
凡人の一人と生きて畑打てり宇陀 草子
麦踏や凡人として峡に生く宇陀 草子
百千鳥凡人特に話好き及川 希子
凡人が自己主張してのどけしや及川 希子
マスクして凡人夫婦花粉症及川 希子
凡人の母に捧げるカーネーション及川 希子
月見上げ凡人すぐに酔ひしれる及川 希子
「非凡なる凡人」を読む春の昼大豆生田伴子
蓬摘む凡人として永らへて大豆生田伴子
凡人の己いとしむ花の夕大豆生田伴子
春愁ひ凡人といふひとくくり大豆生田伴子
松の芯凡人にある非なるもの大豆生田伴子
「非凡なる凡人」を読む春の昼岡本 惠子
蓬摘む凡人として永らへて岡本 惠子
凡人の己いとしむ花の夕岡本 惠子
春愁ひ凡人といふひとくくり岡本 惠子
松の芯凡人にある非なるもの岡本 惠子
初蝉や凡人ふたり立ち話鬼武 孝江
凡人の肩を濡らすや春の雨鬼武 孝江
夏木立凡人ゆつくり背を伸ばす鬼武 孝江
透き通るゼリーが好きよ凡人よ鬼武 孝江
凡人の夢常磐木の落葉かな鬼武 孝江
初蝉や凡人ふたり立ち話河邉幸行子
凡人の肩を濡らすや春の雨河邉幸行子
夏木立凡人ゆつくり背を伸ばす河邉幸行子
透き通るゼリーが好きよ凡人よ河邉幸行子
凡人の夢常磐木の落葉かな河邉幸行子