今までの兼題
第1回 | 海 | 第2回 | 岩 | 第3回 | 風 | 第4回 | 雨 |
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第5回 | 地球 | 第6回 | 獏 | 第7回 | 焔 | 第8回 | 鎖 |
第9回 | 闘 | 第10回 | 鬼 | 第11回 | 面 | 第12回 | 悪 |
第13回 | 数 | 第14回 | 憎 | 第15回 | 兄弟 | 第16回 | 骨 |
第17回 | 青 | 第18回 | 飛 | 第19回 | 指 | 第20回 | 輪 |
第21回 | 五 | 第22回 | 進 | 第23回 | 祝 | 第24回 | 角 |
第25回 | 羽 | 第26回 | 貧 | 第27回 | 洋 | 第28回 | 雀 |
第29回 | 父 | 第30回 | 肩 | 第31回 | 円 | 第32回 | 満 |
第33回 | 馬 | 第34回 | 白 | 第35回 | 黒 | 第36回 | 赤 |
第37回 | 黄 | 第38回 | 家 | 第39回 | 書 | 第40回 | 万 |
第41回 | 広場 | 第42回 | 鉛筆 | 第43回 | 映画 | 第44回 | 路地、露地 |
第45回 | 近江、淡海 | 第46回 | 時計 | 第47回 | 正座 | 第48回 | 手足 |
第49回 | 引力 | 第50回 | 受信 | 第51回 | 凡人 | 第52回 | 書架・書棚 本棚・書庫 |
第53回 | 進化 | 第54回 | 硝子 | 第55回 | 暗闇 | 第56回 | 猛犬 |
第57回 | 坩堝 | 第58回 | 位置 | 第59回 | 青森 | 第60回 | 模様 |
第61回 | 王様 | 第62回 | 四角 | 第63回 | 半島 | 第64回 | 懸垂 |
第65回 | 全身 | 第66回 | 回転 | 第67回 | 珈琲 | 第68回 | 反対 |
第69回 | 夫・妻 | 第70回 | 隣人 | 第71回 | 危険 | 第72回 | 書類 |
第73回 | 眼鏡 | 第74回 | 午前・午後 | 第75回 | 人形 | 第76回 | 世界 |
第77回 | 仲間 | 第78回 | 教室 | 第79回 | 椅子 | 第80回 | 阿吽 |
第81回 | 土地 | 第82回 | 煙突 | 第83回 | 階段 | 第84回 | 曖昧 |
鳥渡る坩堝に鉄を溶かす街 浜田はるみ
るつぼ冷え鋳物工場の片隅に 浅見百
秋懐や坩堝に溶かすガラス玉 石井圭子
黒鶫坩堝で焼きし山の民 兄部千達
坩堝から鋳込む砂型冬の汗 西方来人
陶窯の焔の坩堝守る夜長 鈴木まさゑ
工房に眠らぬ坩堝初時雨 谷原恵理子
坩堝から汲みだす顔に汗の玉 及川希子
秋の日をじつと延銅坩堝かな 栗原良子
六九号の兼題は「坩堝」である。広辞苑には三つの意味が書き込まれていた。一つは物質を溶解し、または灼熱するための耐火性の器のことである。ににんの吟行で、以前硝子工房に出かけたことがある。工場の人は、硝子を溶かしている炉を「坩堝」と呼んでいた。二つ目の意味は、実際の坩堝の意味から派生した興奮・灼熱の場のたとえとして使用される。三つ目は種々のものが入り混じった混沌とした状態を指す。今回、大方はこの中の二番目、三番目の意味で読んでいる場合が多かった。兼題が出たときに、本来の原初の言葉を、まず念頭に置きたいと思う。視覚で捉えた坩堝を詠んだ句を拾い出してみた。一句目はあきらかにキューポラの街を想像出来る。オーソドックスな作品として、鳥渡るの季節感が漲っている。最後の(秋の日を)の句の延銅坩堝は銅を適宜な温度で温めながら伸ばして行くもの、その動きはまるで秋の日差しが送り出しているかのようなゆっくりした時間と空間を言い表している。
ふつふつと線香花火にある坩堝 中崎啓祐
何を捨てむ焚火のるつぼ見つめゐて 河邉幸行子
埋み火の坩堝ときどき命燃ゆ 山本美帆
坩堝より取り出だしたる石焼芋 浜岡紀子
朴落葉すべて坩堝に放りこむ 川村研治
これらの作品群は、比喩でも想念でもない。目前に発見した坩堝同様のものである。一句目の線香花火の句は、火花を放つ中心にある赤い玉のようなもの、その小さな火の玉を、坩堝として発見したのである。坩堝と言いとめたことで、誰でも見たことのある線香花火の雫が存在感となる。
二句目、三句目、規模は違うが、それぞれ焚火の底、そして埋火の底を見詰めているのである。
坩堝の中の硝子のような透明な火力の息衝きを心と呼応させているように見える。
四句目は石焼芋の壺そのものを坩堝のことばに置き換えて、その壺の内側を見詰めている。
五句目は落葉ではなく朴落葉であることに注目したい。落葉の中でもことに大きな朴の葉、それだけを坩堝に放りこんでいるのだ。そのことで、繰り返し朴の葉が読み手の中に積り、わけもない期待感が生まれるのである。
冬星の坩堝のなかを歩きけり 木津直人
一回転すれば坩堝の大花野 服部さやか
日と水の坩堝となれる冬泉 武井伸子
ハロウインの坩堝になりし交差点 千葉隆
冬小雨頭痛の坩堝を引き連れる 木佐梨乃
赤い月新宿といふ坩堝より 山下添子
広辞苑でいうところの三つ目の種々のものが入り混じった状態であるが、視覚的な坩堝の句を引き出してみた。
母といふ思考の坩堝寒波来る 阿部暁子
木枯しや坩堝の中の防衛論 新木孝介
脳みそは「坩堝」の坩堝初嵐 小塩正子
別れとは冷えたる坩堝赤い月 島崎正彦
十二月過ぎ来し日々の坩堝かな 鬼武孝江
想念から生まれた坩堝で、広辞苑の(興奮や灼熱)に当たる。一句目の子育て中の母親の奮闘。二句目の、それぞれの防衛論。三句目の自身の脳内の混迷。そして四句目、五句目の心の有り様を坩堝に託して、それぞれ成功している。
沈黙の坩堝しぐれの座禅堂 佐々木靖子
坩堝が静寂とか無音とは認識していなかったので、この句には驚かされた。「沈黙の坩堝」であればそれは坐禅堂のことかもしれない。しかも「しぐれの坐禅堂」とは見事だと。
坩堝から汲み出す硝子花柘榴 岩淵喜代子
硝子の液の坩堝から汲み出された花! それは濃い朱の柘榴の花、美しく匂うかも!
牡蠣喰へば冬の坩堝の胃の腑かな 木佐利乃
子規の句を、ここまでアレンジできるとは。
牡蠣好きにはたまらない一句である。生牡蠣にレモン汁を一、二滴たらし、ペロリと飲み込む醍醐味とのど越しはまさしく冬の味覚を代表すると言ってよい。
多言語の坩堝に迷子霧深し 和智安江
今、外国人の観光客、特に高尾山は外国人が多いと聞きます。霧深い山に多言語が飛び交い、その中に迷子がいる。それで句は成立します。しかし、作者は、広い視野、即ち、現代の不透明な世界観、例えば、難民、テロエルサレム、アメリカ ファースト等、先行きの不安感を「迷子と霧深し」で表現されました。僅か十一文字の中に内包された現代。凄い表現と感心致しました。
毛皮着て泣く夜坩堝のニューヨーク 谷原恵理子
いかにもニューヨークを云い得ています。
沸沸と線香花火にある坩堝 中崎啓祐
坩堝となると、つい大きなものを想像しましたが、こんな小さな坩堝もありました。
坩堝より取り出だしたる石焼芋 浜岡紀子
坩堝からたんぽぽの芽がたあぷぽぽ 和智安江
一回転すれば坩堝の大花野 服部さやか
坩堝とは硬質の器とおもっていましたら可塑性でいかようにもかわるよう。斬新な音もだす。ドラえもんのポケットのようになんでも出てきそう。
深海の闇の坩堝や冬満月 浜田はるみ
深海の闇と冬満月の取り合わせは印象的である。海面を煌々と照らす月光は深海に届いているのだろうか。届いているはずがない。でも、ひょっとしたら深海の闇の坩堝に蠢いている生物の中には感知している微生物がいるかもしれない。なぜならば深海は人間が解明できない謎の世界だから。
浄土への道にるつぼの蓋が開く 浅見百
蓋が開くという自動詞が茫洋とした可笑しみを醸し出すのか。ゆっくりと笑いのようなものが込み上げてくるのです。それは何処から来るのだろうか、笑いとは言い兼ねるもの、或いは人称を欠いた首無しの笑いのようなものが、言葉とイメージの隙間から湧き出て来るのだと考えてみる。シンプルでおおらかな想像力。何処かこれは『梁塵秘抄』に近い世界なのだろうか、一首拾って見よう。
極楽浄土のめでたさは、一つも空(あだ)なることぞ無き、吹く風立つ波鳥も皆、妙なる法(のり)をぞ唱うなる(一七七)
さらに『閑吟集』を覗くと不思議な歌がありますね。
靨(ゑくぼ)の中へ身をなげばやと、思へど底の邪がこわひ(二一七)
石の下の蛤、施餓今世楽(せがこんせらく)せいとなく(二三八)
忽然と緋色の坩堝彼岸花 | 小塩正子 |
秋深し「坩堝」といふ名のカフェテリア | 小塩正子 |
長き夜や「坩堝」の漢字完璧に | 小塩正子 |
脳味噌は「坩堝」のるつぼ初嵐 | 小塩正子 |
幾度も「坩堝」を検索長き夜 | 小塩正子 |
バス内は笑ひの坩堝秋高し | 西方来人 |
春眠や坩堝のやうな砂時計 | 西方来人 |
天体は星の坩堝や秋の真夜 | 西方来人 |
坩堝から鋳込む砂型冬の汗 | 西方来人 |
受験生文字の坩堝に嵌りけり | 西方来人 |
秋晴や戦渦の坩堝たりし島 | 佐々木靖子 |
月皓皓砲火の坩堝逃れ来て | 佐々木靖子 |
沈黙の坩堝しぐれの座禅堂 | 佐々木靖子 |
男らの気合の坩堝ばい廻し | 佐々木靖子 |
不安の坩堝たぎるを抑へ大試験 | 佐々木靖子 |
坩堝なりスターマインの赤き空 | 島崎正彦 |
涅槃まで坩堝は続く蝉時雨 | 島崎正彦 |
おくんちの坩堝と化しぬ裏通り | 島崎正彦 |
沈黙の坩堝たぎるや大試験 | 島崎正彦 |
別れとは冷えたる坩堝赤い月 | 島崎正彦 |
坩堝今我が心なり秋にくれ | 志村万香 |
秋深し心語れぬ坩堝かな | 志村万香 |
葛藤の坩堝にあれど冬初め | 志村万香 |
日輪の坩堝に入りし秋夕焼け | 志村万香 |
揺れ動く心は坩堝秋のくれ | 志村万香 |
しづかなる坩堝のごとく鶏頭燃ゆ | 末永朱胤 |
坩堝より出できし星に鶏頭立つ | 末永朱胤 |
鶏頭の赤き坩堝の二歩手前 | 末永朱胤 |
鶏頭の坩堝を覗き込み暮れぬ | 末永朱胤 |
鶏頭の坩堝の跡の荒れ地かな | 末永朱胤 |
陶窯の焔の坩堝守る夜長 | 鈴木まさゑ |
朝霧の坩堝に影絵めく走者 | 鈴木まさゑ |
虫の音の坩堝の底に父母祖父母 | 鈴木まさゑ |
山染めて秩父夜祭灯の坩堝 | 鈴木まさゑ |
総立ちの坩堝やラガー駆け抜けて | 鈴木まさゑ |
粕汁の坩堝となりし胃の腑かな | 高橋寛治 |
曼珠沙華胸の坩堝の渦の色 | 高橋寛治 |
仙人の坩堝に投げし寒椿 | 高橋寛治 |
何も彼も坩堝の中へ秋夕焼 | 高橋寛治 |
そんなにも月の坩堝でありし過去 | 高橋寛治 |
稔り田の風の坩堝を見てをりぬ | 武井伸子 |
街ひとつ秋夕焼の坩堝なる | 武井伸子 |
街の灯の坩堝となりてクリスマス | 武井伸子 |
梟の降り立つ闇の坩堝かな | 武井伸子 |
日と水の坩堝となれる冬泉 | 武井伸子 |
女子会は坩堝風邪引き怒りんぼ | 谷原恵理子 |
毛皮着て泣く夜坩堝のニューヨーク | 谷原恵理子 |
工房に眠らぬ坩堝初時雨 | 谷原恵理子 |
大阪は料理の坩堝忘年会 | 谷原恵理子 |
祝祭は坩堝のやうにクリスマス | 谷原恵理子 |
冬薔薇の底に坩堝の炎立つ | 近本セツ子 |
比売神の坩堝満たしに木の実降る | 近本セツ子 |
淡海はや夕日の坩堝大根抜く | 近本セツ子 |
からす瓜白き坩堝に夢を見る | 近本セツ子 |
シャンソンは坩堝めきゐて冬木の芽 | 近本セツ子 |
秋の夜の坩堝で練りし一句かな | 千葉 隆 |
秋の暮れネオン坩堝の歌舞伎町 | 千葉 隆 |
ハロウィンの坩堝になりし交叉点 | 千葉 隆 |
晩秋や赤、黄、緑の坩堝となり | 千葉 隆 |
歓声の飛び交ふ坩堝大相撲 | 千葉 隆 |
冬めきて霊気の坩堝となる暗渠 | 辻村麻乃 |
稲荷山人種の坩堝と化し立冬 | 辻村麻乃 |
坩堝なる無国籍の街青写真 | 辻村麻乃 |
冬花火歓喜の坩堝となる旅所 | 辻村麻乃 |
生姜湯や電脳坩堝となる夜明 | 辻村麻乃 |
イベントの坩堝に戻る日の紅葉 | 同前悠久子 |
秋夕陽デキシーの坩堝に飛び込めり | 同前悠久子 |
ジャミンゼブ囲む坩堝に秋の虹 | 同前悠久子 |
音の坩堝文字の坩堝や冬立ちぬ | 同前悠久子 |
十年をジャズの坩堝の春夏秋冬 | 同前悠久子 |
坩堝炉や巨大マグマの冬落暉 | 豊田静世 |
ガンジス川は生・死の坩堝夏夕焼 | 豊田静世 |
春光の鳴門海峡潮坩堝 | 豊田静世 |
炎天下色とサンバの坩堝かな | 豊田静世 |
台風の目や坩堝炉のど真ん中 | 豊田静世 |
秋桜坩堝の炎青く揺れ | 中﨑啓祐 |
熱風や坩堝に溶ける赤い月 | 中﨑啓祐 |
坩堝冷えたるキューポラの街寒し | 中﨑啓祐 |
沸沸と線香花火にある坩堝 | 中﨑啓祐 |
沈黙の宵闇坩堝沸騰す | 中﨑啓祐 |
虫の音の坩堝の中に眠りこけ | 中島外男 |
濁流の坩堝と化する野分かな | 中島外男 |
人ごみの坩堝に独り秋夕焼け | 中島外男 |
雑踏の坩堝の中で除夜の鐘 | 中島外男 |
人ごみの坩堝の中を初詣 | 中島外男 |
立冬の坩堝の底に凝りしもの | 中西ひろ美 |
坩堝でせう秋と冬との交々は | 中西ひろ美 |
友の逝く坩堝もちんと泣きにけり | 中西ひろ美 |
火も水も澄めば坩堝の楽しかり | 中西ひろ美 |
マスクして坩堝のやうに銀座線 | 中西ひろ美 |
脳内はいつも坩堝や鶏頭花 | 服部さやか |
一回転すれば坩堝の大花野 | 服部さやか |
マフラーを巻いて坩堝の中の顔 | 服部さやか |
坩堝から生まるるものよ冬銀河 | 服部さやか |
見下ろせば光の坩堝冬灯 | 服部さやか |
黄金の坩堝へ冬の蝶堕ちる | 浜岡紀子 |
スケートの渦の坩堝に羽うまれ | 浜岡紀子 |
はなびらの坩堝は媚薬冬薔薇 | 浜岡紀子 |
坩堝より取り出だしたる石焼芋 | 浜岡紀子 |
ゆきをんな坩堝抱へてゐるといふ | 浜岡紀子 |
鳥渡る坩堝に鉄を溶かす街 | 浜田はるみ |
夜長にて月も坩堝の一つかな | 浜田はるみ |
いちめんの光の坩堝雪野原 | 浜田はるみ |
追憶の坩堝に在りて毛糸編む | 浜田はるみ |
深海の闇の坩堝や冬満月 | 浜田はるみ |
暑き日の祈りの坩堝広島忌 | 牧野洋子 |
坩堝なる風に逆らふ芒の穂 | 牧野洋子 |
工場の坩堝を覗く赤とんぼ | 牧野洋子 |
図書館は活字の坩堝小鳥来る | 牧野洋子 |
湧水の深き坩堝や花山葵 | 牧野洋子 |
メーデーの坩堝の中に紛れけり | 宮本郁江 |
放水のダムの坩堝や秋の虹 | 宮本郁江 |
わが心坩堝の如き野分かな | 宮本郁江 |
ロケットの炎の坩堝天高し | 宮本郁江 |
客席は笑ひの坩堝初しぐれ | 宮本郁江 |
錦秋の坩堝電車を乗り継いで | 村瀬八千代 |
布すくふ針や夜長の坩堝へと | 村瀬八千代 |
黄落の坩堝どこまでも青空 | 村瀬八千代 |
房総の白波小春日の坩堝 | 村瀬八千代 |
冬菊のひかりの坩堝描きけり | 村瀬八千代 |
地に響く音の坩堝や運動会 | 山下添子 |
赤い月新宿といふ坩堝より | 山下添子 |
風遊ぶ花野の坩堝ひといろに | 山下添子 |
遠景は光の坩堝曼珠沙華 | 山下添子 |
台風の坩堝の中に過疎の村 | 山下添子 |
浮かれをるジャズの坩堝と雪の舞 | 山本美帆 |
息白き通勤電車の坩堝かな | 山本美帆 |
千人の第九の坩堝去年今年 | 山本美帆 |
土竜打ち土の坩堝を糺す音 | 山本美帆 |
埋み火の坩堝ときどき命燃ゆ | 山本美帆 |
多言語の坩堝に迷子霧深し | 和智安江 |
坩堝からたんぽぽの芽がたあぷぽぽ | 和智安江 |
大滝の坩堝の泡に龍の影 | 和智安江 |
遠雷や胸の坩堝にのこる澱 | 和智安江 |
俳句てふことばの坩堝蓮の実とぶ | 和智安江 |
蛇穴へるつぼたぎりて宇宙塵 | 浅見 百 |
秋蛍るつぼの炎に吸ひ込まれ | 浅見 百 |
大西日想ひ断ちきる坩堝鋼 | 浅見 百 |
浄土への道にるつぼの蓋が開く | 浅見 百 |
るつぼ冷え鋳物工場の片隅に | 浅見 百 |
夕焼の坩堝の駅に人を待つ | あべあつこ |
免れぬ死や坩堝なす夏蓬 | あべあつこ |
暫くは恐怖の坩堝なめくぢり | あべあつこ |
虫の音の坩堝となりぬ宴あと | あべあつこ |
野良猫と落葉坩堝にぬくとあり | あべあつこ |
姉といふ坩堝カラフル秋桜 | 阿部暁子 |
ラストワルツ歓声の坩堝の底で | 阿部暁子 |
情報の坩堝スルーや師走来る | 阿部暁子 |
ぐちやぐちやの心の坩堝寒昴 | 阿部暁子 |
母といふ思考の坩堝寒波来る | 阿部暁子 |
坩堝からこぼるるやうに冬うらら | 新木孝介 |
木枯や坩堝の中の防衛論 | 新木孝介 |
着ぶくれて坩堝のごとき街に住む | 新木孝介 |
愛憎の混じらぬ坩堝榾返す | 新木孝介 |
チゲ鍋の坩堝のごとき七日かな | 新木孝介 |
ひとの世の坩堝の襞や後の月 | 五十嵐孝子 |
東京は個性の坩堝十三夜 | 五十嵐孝子 |
風邪ひいて熱の坩堝の底に落つ | 五十嵐孝子 |
興奮の坩堝と化して新走 | 五十嵐孝子 |
我が胸の坩堝薄氷踏む如く | 五十嵐孝子 |
我が町も選挙の坩堝稲雀 | 石井圭子 |
拘杞の実を入れて坩堝となるグラス | 石井圭子 |
園児等の坩堝見下ろす鵙日和 | 石井圭子 |
秋懐や坩堝に溶かすガラス玉 | 石井圭子 |
黄落や坩堝の罅を撫でてゐる | 石井圭子 |
坩堝から汲みだす硝子花柘榴 | 岩淵喜代子 |
恋よ恋佞武多の町は灯の坩堝 | 岩淵喜代子 |
ひぐらしの声の坩堝となりにけり | 岩淵喜代子 |
身中の坩堝にとどく虫の声 | 岩淵喜代子 |
坩堝から坩堝に移す葉鶏頭 | 岩淵喜代子 |
沖は今坩堝と化して秋落暉 | 宇陀草子 |
乱れ打つ太鼓坩堝の秋祭 | 宇陀草子 |
街路樹の一木椋鳥の坩堝かな | 宇陀草子 |
椋鳥千羽日暮れ坩堝と化す一樹 | 宇陀草子 |
小春日の坩堝のごとき蜂の巣よ | 宇陀草子 |
楽車の気合の坩堝男伊達 | 及川希子 |
坩堝から汲みだす顔に汗の玉 | 及川希子 |
濁流の坩堝と化して野分後 | 及川希子 |
虫の音の坩堝の闇に高枕 | 及川希子 |
集まりて火の坩堝なす秩父山車 | 及川希子 |
かなしみの坩堝をかかへ大花野 | 大豆生田伴子 |
声援の坩堝と化せる運動会 | 大豆生田伴子 |
木犀の香りの坩堝くぐり来ぬ | 大豆生田伴子 |
西空は茜色の坩堝秋深む | 大豆生田伴子 |
虫の音のちさき坩堝を胸内に | 大豆生田伴子 |
憂きことを坩堝に入れて冬支度 | 岡本恵子 |
鶏頭の重なりをれば野は坩堝 | 岡本恵子 |
こほろぎや夜の坩堝の捜神記 | 岡本恵子 |
冬鴉白金坩堝欲しさうに | 岡本恵子 |
坩堝の蓋しつかり閉めて神の留守 | 岡本恵子 |
秋風の坩堝となりし素焼き壺 | 尾崎淳子 |
雁行の坩堝に転生したる吾 | 尾崎淳子 |
防人の岬秋夕焼けの坩堝 | 尾崎淳子 |
我胸の坩堝に収め寒三日月 | 尾崎淳子 |
波音の坩堝となりぬ冬の駅 | 尾崎淳子 |
初時雨坩堝に化ける有象無象 | 鬼武孝江 |
酒砂糖生姜赤味噌皆坩堝 | 鬼武孝江 |
蓮根掘る坩堝に放り込みし夢 | 鬼武孝江 |
冬の虹坩堝に混ざる記憶たち | 鬼武孝江 |
十二月過ぎ来し日々の坩堝かな | 鬼武孝江 |
何を捨てむ焚火のるつぼ見つめゐて | 河邉幸行子 |
ハロウィンの渋谷の夜の坩堝かな | 河邉幸行子 |
河豚汁老いの坩堝といふがあり | 河邉幸行子 |
踏み鳴らす枯葉のるつぼ誰彼と | 河邉幸行子 |
秩父夜祭ひと固まりの坩堝かな | 河邉幸行子 |
虫時雨坩堝回転はじめたる | 川村研治 |
蟷螂のやうなる坩堝挟みかな | 川村研治 |
白金の坩堝にひとつ黒葡萄 | 川村研治 |
朴落葉すべて坩堝に放りこむ | 川村研治 |
炎立つ雪の匂ひの坩堝かな | 川村研治 |
文学の坩堝に遭ひて冬ごもり | 木佐梨乃 |
冬ざれの上野の山は美の坩堝 | 木佐梨乃 |
冬小雨頭痛の坩堝を引き連れる | 木佐梨乃 |
愛情の坩堝と化して日向ぼこ | 木佐梨乃 |
牡蠣喰へば冬の坩堝の胃の腑かな | 木佐梨乃 |
薄雪や坩堝をかくす浅間山 | 木津直人 |
北風吹きてシューマンは優しさの坩堝 | 木津直人 |
枯れ山に水ふたすぢが坩堝なす | 木津直人 |
冬の谷水の坩堝を掛けつらね | 木津直人 |
冬星の坩堝のなかを歩きけり | 木津直人 |
秋の日をじつと延銅坩堝かな | 栗原良子 |
焼き芋に最適形状坩堝なる | 栗原良子 |
神無月坩堝より逃ぐ搔き分けて | 栗原良子 |
冬来る坩堝定置の博物館 | 栗原良子 |
善男に悪女坩堝の年の際 | 栗原良子 |
ペーチカに桜樹くべれば香の坩堝 | 兄部千達 |
寒灸の痛み快感坩堝かな | 兄部千達 |
黒鶫坩堝で焼きし山の民 | 兄部千達 |
山の神の扇祭りの火の坩堝 | 兄部千達 |
手花火の坩堝が作る火の柱 | 兄部千達 |