今までの兼題

第1回第2回第3回第4回
第5回地球第6回第7回第8回
第9回第10回第11回第12回
第13回第14回第15回兄弟第16回
第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回
第25回第26回第27回第28回
第29回第30回第31回第32回
第33回第34回第35回第36回
第37回第38回第39回第40回
第41回広場第42回鉛筆第43回映画第44回路地、露地
第45回近江、淡海第46回時計第47回正座第48回手足
第49回引力第50回受信第51回凡人第52回書架・書棚
本棚・書庫
第53回進化第54回硝子第55回暗闇第56回猛犬
俳句投稿の受付は、終了いたしました。

自販機のボタンにしっかと雨蛙  RICKY

★鮮やかなエメラルド色の雨蛙は、青葉の上以外ではとてつもなく目立つものである。それも、夜の目も寝ない自動販売機の、ましてや商品を選択するボタンに付いているのである。作者のボタンへと伸ばされた手は、きっと先住の雨蛙を尊重して引っ込められたに違いない。愛らしい生き物が取り付いていることによって、その四角い自販機までもが命あるものに思えてくる。まるでカラータイマーを胸に付けるウルトラマンの姿を彷佛させるのである。(あき子)

たたずみし乙女は去りて梅雨の庭  えみ

★雨の中は通過してばかりいた。梅雨の庭に灯がともるように、少女の姿が佇む。まるで雨も庭も少女も、何ひとつ動かしてはいけないもののように。しかし、少女は行ってしまったのだ。雨のストライプに覆われた庭だけを残して。(あき子)

五月雨や土の匂ひのなまぐさき  宇都宮南山

★雨が土の匂いを際立たせるのはなぜなのだろう。地表に雨粒がぶつかる時、土が育む生命にはっきり命が注がれるからなのだろうか。土から湧く匂いを「なまぐさい」と感じる作者は、土に生きる者の吐息を身近に感じている。(あき子)

紫野出で貴船まで梅雨深し  川野蓼艸

★紫野といえば、額田王の「茜さす 紫野行き標野行き標野ゆき 野守りは見ずや 君が袖振る」の歌を思い出さないわけにはいかない。掲出句の「紫野出で」はそうした背景を感じながら飛鳥を旅して来た作者が、京都の貴船に辿りついたということだろう。このたどり着く先を貴船にするところが、連句師蓼艸さんの本領を発揮したところ。貴船は水の神様ではあるが、縁結びの神としても知られている。この「紫野出で貴船まで梅雨深し」は恋句であり、相聞歌ならぬ相聞句なのである。どこまで行っても梅雨の中。作者の「やれやれ」という声を聞こえてきそうである。(喜代子)

驟雨過ぐ檻に屋根なき動物園  黒澤麻生子

★そうなのだった。動物園の檻には屋根がないのである。祖国の土地を遠く離れた動物たちに、突然の驟雨は何を思い起こさせるのであろうか。南国のスコール、水流の水しぶき。区切られた檻のひとつひとつに、南へ北へ「元居た場所」を思い出している動物たちがいる。(あき子)

雨の日の潜水艦と合歓の花  川野蓼艸

★晴天ならばかがやく硬質な潜水艦と、感触のやわらかな合歓。それを繋いでいるのが雨である。作者は潜水艦を詠うつもりではない、合歓の花の美しさを主張しようとしているのでもない。自分を含めた全てのものを濡らして、一枚の絵の中におさめた夏の雨を見詰めているのである。(喜代子)

葉の裏にあをき虫いる夏の雨  今野志津子

★葉も、青虫も、雨も、空気さえも、すべてが濃淡の青一色で、書きあげた水彩画である。慈雨とも呼ばれる夏の雨の清涼感が、葉の裏にかくれている虫を発見することで、実感の裏打ちになっている。今野さんの句はいつも自然と語り合うことから始まっていて、とても楽しい。(喜代子)

幼苗の慣れぬ畑に小糠雨  ゆうゆう

★慣れない畑作りでは、ようよう苗が地についた頃の天気はさぞかし気になることだろう。この雨で流されはしないか、この太陽で乾きすぎはしないか。願わくばこの生まれたての苗に受ける雫が、やさしい小雨でありますように、と。作者の思いが通じたような小糠雨が畑を煙らせている。
 サトウ・ハチローの「ほそいほそい/やさしい雨には/かあさんのまつ毛がある」(雨とおかあさん)を思い出している。(あき子)

本降りの雨や苺を甘く煮る 千秋

★とりたててしなければいけないことがない時でも、台所は女を待っている。買い置きの缶詰めを並べかえてみたり、焦げついて放ったままになっているお鍋の底をこすってみたり、自分だけのための紅茶を入れてみたり。なにもかもを押し流してしまうような本降りの中、作者は苺を煮ている。誰のためでもなく、いわば自分と台所のために。雨は街のすべての匂いを消し去り、女は家を苺の匂いで満たしている。(あき子)

春驟雨嘘泣きににて降りたらず  ゆうゆう

★春の夕立は何やら色っぽい。涙は女の武器というが、その昔、花魁は嘘泣きと達者な言い訳で、厳しい世界を渡り合ったそうである。茶碗に汲んだお茶を涙がわりに使う予定が、脇に置いてあった硯から間違って墨をせっせと塗ってしまった花魁に「おいおい」とつっこむと「あんまり泣いて、目玉が潰れました」という小咄を思い出してしまった。
 この句の作者も、どうやらあまり上手に演じることができなかったようである。通り過ぎていく春驟雨を「ふふ、馬鹿なことしちゃった」と小さく舌を出して、ひとり眺めているのであろうか。(あき子)

山茱萸の花に雨粒宿りゐる  平田雄公子

★この花は春黄金花(はるこがねばな)の別名があるように、ただただ、金色の小さな花の集合体である。
 作者はその小ささゆえに、花に近づいたのである。近づいてみると、集まっている小さな花のひとつひとつがよく見える。それだけではない。その小さな花の集まりが、一粒の雨粒を支えていたことも発見したのである。(喜代子)


予選句

雨音のいつしか鼓動天の川けい
遠雷の先駆けばかり雨落ちず浅見優子
降りこめよ我を草葉を甘き朝をえみ
降りこめよ思い知らせよこの地に我にえみ
山際に細き青さよ雨来るかえみ
アジサイの陰で子猫は一度鳴きえみ
白シャツの蒼き蛍光雨上がる宇都宮南山
雨音のなき黒百合や遠眼鏡宇都宮南山
雨止みの間に間に雀瓜の陰めちゃ
路地裏の寺ひっそりと梅雨の入りあきこ
水けぶる谷地田の梅雨にあきもせずゆうゆう
あま戸打つ雨の音もう一眠りメチャ
市振の氷の旗に通り雨川野蓼艸
春の雨川らしくなる入間川ゆうゆう
新緑や雨にけぶりし沈下橋宮本郁江
驟雨さすビル尖端の航空灯山岡正嗣
通り雨眸寄せきし袋角山岡正嗣
こぼれちる花に雨呼ぶ宵の風R.N