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青山の骨董通り若葉雨    以和於

★題の最後が清々しい若葉雨となった。東京都港区青山は、言わずと知れたお洒落な街である。「骨董通り」とはいえ、着物のおじいさんが店番をしているような店は見当たらず、ブランドショップが立ち並ぶなか、軒を連ねる骨董屋さんも今やすっかりアンティークショップのたたずまいである。若葉の街路樹に、きらきらと雫が光る。骨董屋さんの奥には、ここが住む街だったころの名残の生活品が、今も静かに並べられている。(あき子)

白骨の湯にも卯の花腐しかな   かよ

★天下の名湯白骨温泉。白骨の名は、石灰分の結晶が白く付着することと、乳白色の湯から付いたのだという。ときに虹色に輝く湯であるという。車に弱い私には、駅から1時間もかかるというこの温泉は、以前から憧れの場所であった。今日も止まぬ長雨を眺めつつ、温泉に手足を伸ばす。やらなくちゃいけないことなんてなんにもない。それが湯治の要なのだ。ああ、行ってみたい。(あき子)

若葉にも骨が見えたと吾子の問う    ミサゴン

★太陽に透かすと葉脈が鮮明に浮き上がる。それも初夏の若葉の頃が最も美しい。子供は葉っぱの形から魚を連想して、「骨が見える」と言ったのかもしれない。木々に親子に降りそそぐ陽の光りが眩しく明るい。(喜代子)

化石魚に元祖の背骨風光る    米川五山子

★魚の化石は岩の断面などに現れる。鮮明に魚の輪郭を残しているが、中でもはっきり現れるのはその背骨の形である。それが残るから魚とわかるのである。何億年前の化石魚の背骨も今と同じ。そして何億年前の風も輝きわたって吹いていたことに、作者は不思議な感動を感じているのである。(喜代子)

蝶の翅つまめば骨の在るを知る    siba

★作者は、蝶には骨が無いなどとは思っていたわけではない。だが、戯れに摘んだ指先に、蝶の骨を感じたのは不意を突かれた思いがしたのである。骨を意識したことは命を意識したこと。とつぜん、いま指先にある蝶へ、いとおしさのようなものが湧き上がってきたのではないだろうか。(喜代子)

あばら骨あらはに父の古浴衣    以和於

★ふと見えてしまった父の薄い胸。くたびれた浴衣。そんな親を格好悪いと思うほど子供でもなく、また涙するほど老いてもいない。ただ、そのあらわな骨にかけてきた苦労のいくつかは自分が関係したものだ。この一瞬の景色が、永遠の映像として刻まれる。(あき子)

春の宵骨ならしつつ奴を待つ   いうな

★喧嘩の前に拳を固めて交互に骨を鳴らして見せるのは、まず威嚇。そして、なんとなく自らの志気を鼓舞する役目も持つ、喧嘩の作法みたいなものである。春の宵という生あたたかさが、命をかけた決闘とは明らかに違う、若々しい他愛なさを引き出している。(あき子)

柴犬の骨抱へ込む花の風   双葉

★犬に骨、猫に毛糸玉、ネズミにチーズ。この揺るがざる定番に誰もが頬を緩ませる。柴犬のくるりと巻き上がった尻尾が、ちぎれんばかりに左右振れ、春の庭に芽吹きが始まる。桜は満開、すべて世はこともなし。(あき子)

春風よ骨となる日の母の髪   風湧

★目の前の遺体は確かに母である。これから焼かれる母である。骨壷が用意され、??この中に収められる母である。骨は残るが髪はすっかり焼かれてしまうのだ。おんぶされた鼻先にいつも揺れていた母の髪。焼いてしまうという直面する事実に遠く離れた黒髪がそこに広がっている。(あき子)

つちふるやそつと持たせる屋台骨   夏海

★屋台骨をいわゆる屋台と考えるか、あるいは店を支える人、一家の中心の人のことと考えるか。どちらにしても、黄塵の中に漠獏と浮かぶシュールな映像が静かなかなしみを誘って展開される。(喜代子)

春草に骨相覚えられて起つ   かげお

★私の師でもある川崎展宏の句に「人間は管よりなれり日短」というのがある。考えてみれば?、うすい皮膚一枚の下を循環するさまざまな管によって生命維持がなされているのである。かげおさんの句の骨相もまた、人間を形成しているもう一つの主要な要 素である。それさえ、人それぞれの相があって、遠くからでも認識出来るときがある。一面の萌えだしたばかりの野、そこで顕な自分の姿を自意識する瞬間なのである。(喜代子)

白木蓮崩れて闇に骨散りぬ   森 隆暁

★白い花は闇のなかではなおさら白が際立つもの。白木蓮が崩れて闇の中に落ちゆくときのその白さが、ふと骨ということばに行き着いたのである。花びらが散るのか骨がちるのか、その錯綜感が骨を美しく見せ、白木蓮の白さを凄惨に見せている。同時期に送って頂いた同じ作者の「骨噛みをせがむ女や紫木蓮」も魅力的な作品である。(喜代子)

春泥や揺れてをるらし耳小骨   顎オッサン

★耳小骨とは「鼓室内に突出する三つの小骨すなわちツチ骨、キヌタ骨、およびアブミ骨の総称である。これらの小骨は相連結して鼓膜の振動を内耳に伝える役割をはたす」ものだそうだ。耳の奥深くで、かさこそと音を立てるいくつかの骨を想像する。学生時代、生物の授業で習った耳の部位は「前庭」「蝸牛」と何やら不思議な名称だった。人体に宇宙がこっそりと収まるとしたら、それは胃袋でも、頭蓋骨でもなく、きっと耳のなかに違いない。あたたかい春のぬかるみが、右の耳から左の耳の間にぎっしり詰まっているような気分になり、そっと頭を傾けてみる。(あき子)

骨壺に話し掛けるや春の宵   清水昶

★四十九日の法要まで骨壷は家にある。葬式というめまぐるしいセレモニーがひと段落し、ようやく落ち着いた時間が取れる。葬儀の主人公でありながら、忘れられたように置かれている骨壷に??ふと話しかけてみる。それは写真や位牌に話しかけるよりずっと、故人と向き合っているという生々しい感触があるのではないか。まだ暮れきらぬ春の宵が、彼方と此方の間に漂っている。(あき子)

蒸鰈きれいに骨となりにけり   ハジメ

★鰈は扁平な魚。泳ぐときも扁平な体をそのまま水に浮かせているのかどうか、まだ見たことがない。蒸鰈は塩蒸したものを陰干ししたものである。作者は皿の上の鰈を見たとき、すでに他の魚よりもその白さや透明感に美しさを感じていたのだろう。食べ終わってみると、さらに透明な骨が皿の上で造形美を作っていることに心が捉えられたのである。(喜代子)

花の下指図通りに骨拾ふ   道草

★火葬のあとの骨拾いは最も親しい縁者、父母や兄弟や子供たちによって行われる。それにもかかわらず、指図するものの側の所有物でもあるかのように、命令に従う、という不可思議な場面になっていることに、作者は気がついたのある。すべては花の下の出来事である。(喜代子)

花筏余多の骨を匿しけり   こうだなを

★文京区関口あたりを流れる神田川には見事な桜並木がある。幾千の落花が川へと散り、蛇行する川面はさながらピンクの鱗を持つ動物のようになる。今年も来週あたり桃色の龍を見ることができるだろう。きっとこの句を思い出しながら。(あき子)

長閑けしや理科室の骨我も持つ   麻子

★小学校の理科室にあった骨格標本には、確か男の子の名前が付いていたが忘れてしまった。どこか妙な愛着を感じつつ、子供の目にはどう見てもこのガタガタしたものが、自分の身体に収まっているとは到底信じられなかった。あたたかな放課後の理科室で、骨格標本はマンガのような骸骨の形の影を伸び伸びと床に映している。(あき子)

骨片のごとき春雪降りしきる   花茨

★空を仰いでいるときの雪片は決して白いとは思えない。その雪の暗さが骨片のように感じられたのかもしれない。地上に降りてはじめて、雪は白く輝くのだろうか。音もなく降りしきる雪を仰いでいると、異次元に誘われてゆくような不安感がある。(喜代子)

骨密度ふはり桜の散り初めて   夏海

★このごろの体重計は骨密度まで量りだしてくれる。骨密度ということばの提示は、桜のぎっしり 降り積った有様を断面図で見せてくれる。花びらが道の端にうず高く積もっているのに??出遭ったりすると、見過ごしては通れない。その思いが「ふはり桜の散り初めて」のフレーズを生ませたのだろう。骨密度と桜の取り合わせが絶妙である。(喜代子)

月光に透かせば骨となるさくら   まり

★桜がその花房を発光させているように思うのは、桜の木が持つ生命力がそう見せるのか。闇のなかで梢が呼吸するたびに花から光りをこぼしているなどと考えるのは、少女が見る空想じみた夢のなかの話しなのだろうか。しかし、動物と植物の間にある差は、ほんのわずかなものにすぎない。春の夜に桜の木が見せる無数の表情を私はどれほど見られるだろう。(あき子)

春の野を越えていきけり骨に箸   花茨

★箸と箸が触れることを「拾い箸」といって嫌うのは、遺骨を拾う時にする箸使いだからだ、とはどの家庭でも教えられている作法のひとつであろう。はたして実際に火葬場で骨を目の前にし、箸から箸へ死者の骨を渡すとき、ここでは作法通りであるにもかかわらず、やっぱり「やってはいけないこと」とをしているような奇妙な気持ちがわだかまる。解き放たれた魂は、箸のタブーなどとは無縁の自在の風となって、春の野を、緑の山をどこまでも駈け抜けて行く。(あき子)

冬の蔵より冬の骨担ぎ出す   蝉八

★一読して飯田龍太作品の中でも秀句に数えられている「一月の川一月の谷のなか」を思い出した。龍太の句の情景はよく見えるのであるが、私には良さがいまだに分らない。ところが、蝉八さんの句は情景は見えにくいのであるが、魅力を発散している。龍太の絡め取っているのは集約の世界だが、蝉八さんの句はこれから始まる予感の点景である。冬の蔵から運び出すのは冬しか使わない道具である。それを担ぎ出すときに、己の骨のありどころをことさら意識してしまう。(喜代子)

春宵の鎖骨より蝶つぎつぎに   きっこ

★ガルシア・マルケスの『百年の孤独』では、小町娘のレメディオスが洗濯場で白いシーツに包まれ昇天する有名な場面がある。これを荒唐無稽と笑った男に、彼は真面目に「しかし実際美しい娘には蝶がまとわりつくのです」と答えたという。まだ暮れて間もない春の宵に、娘の鎖骨から続々と蝶が生まれ飛び立つという夢想は、まるで語り継がれた昔話のような悲しい結末を覚悟した美しさがある。(あき子)

ゆく夏のまつげいつぽん頬骨に   牧タカシ

★まつげは目の上に収まっていてこそ美しい。それが、その一本だけ別の空間に提示されると動物めいて見えてくるし、物語めいてくる。ひとつの夏の終わりを、頬に留まった小さな睫毛に託している手腕は凄いなーと感心してしまう。どこかシュール絵画を連想させる。(喜代子)

山椿骨の泣き言聞く椿   たかはし水生

★これは本当は椿ではなく首なのではないかと思ってしまう。女に命じられた山賊が、次々と首を集める物語が坂口安吾の『桜の森の満開の下』である。集められた首が恋をしたり嫉妬したりする。そして、もうないはずの骨の記憶も語られるかもしれない。そんな背景を描きながら、もう一度落ち椿を眺めると、その赤さがいよいよ赤を際立たせ、白い椿は、錆を深めていく。(喜代子)

はなごろも花の澱積む鎖骨かな   坂石佳音

★満開の桜を見たあとは、身体の窪みのすべてに花の精気がまとわりついているような余韻がある。澱というよどんだ重さが、ただ甘美なだけではない憂鬱な花の気分を伝えている。(あき子)


予選句

夏痩せて医者に骨太褒めらるるかよ
海鼠泣く宮沢賢治の尾てい骨小島岳青
こつこつとほねおりの日々梅干し曇遊
カルメンの鎖骨あらわに衣更えミサゴン
骨ならす整体師の顔若葉冷え長南美智子
謎解きの骨が折れるや破れ傘あすか
骸骨と烏鷺に遊ぶや余花に酒粋狂
膝に遺骨休耕田の秋桜無六
喉仏をんなの骨や青山河あすか
春愁の胸に溶けざる鯛の骨桂姫
ナメクジに愚の骨頂の尿かな野乃野帳
骨密度「良」の膝鳴る今年竹真珠
ナメクジの歩みに骨はなかりけり野乃野帳
半眼のででむし二匹五月雨坂石佳音
万緑や骨定まらぬ子を抱く杉原みさ江
アバラボネアバラボネの中に鳩笛が曇遊
骸骨の黄金バット笑う春米川五山子
チューリップ愛が終わったホネホネ曇遊
めざし食う頭いがいは骨もみな杉原みさ江
実朝忌食卓にある花骨牌いうな
春水や砂金の如く骨拾う
立春大吉タロットにされかうべ坂石佳音
鷺ゆくや気骨卯月の風に乗り
父の骨ひろう箸先冬の暮れ曇遊
骨彫りし古代釣針春の昼米川五山子
あけび色骨は染まりて春の雲ACACIA
夜の虹たしかにあつた骨に春海月
骨の中あの骨こわれ春の海海月
骨噛みをせがむ女や紫木蓮森 隆暁
まあたらし畦を骨とす春田打ち森 隆暁
一夜へて骨に枝葉や糸柳森 隆暁
右肩に気骨隠して桜狩太田西亀
一片の骨ふところに花の旅佳子
骨の形したおしゃぶりや春の犬せいこ
春彼岸白寿の人の骨軽しせいこ
蟻の足骨折しても働けりハジメ
終い風呂鎖骨に溜まる春の水せいこ
四月馬鹿愚の骨頂もいとほしきいうな
ちちははの骨還りゆく山桜まり
髑髏しきじき眺め大試験夏海
骨壷を抱けば軽ろし桜貝夏海
骨癌をつつみてまぶし花衣佳子
遺骨抱く傘にふりこむ寒の雨佳子
木の芽時背骨のきしみ高らかに長南美智子
春宵の微笑み白き鎖骨かなアカシア
骨抜きの魚の給食山笑ふ米川五山子
老骨も背筋を伸ばす卒業式米川五山子
花の下無骨者らが浮かれ役蝉八
骨太の畑打ちこれがじゃがいもだせいこ
躑躅咲く髑髏と何だか似てる気がこうだなを
骨の髄しゃぶり尽くして卒業歌道草
膝の骨なんか言ってる白もくれん曇遊
鳥交る父子骨皮筋右衛門道草
めくるごと段々太く春の骨司馬
桜鯛抜きし小骨の透きとほる桂姫
母の腕孫の手ほどに初さくら夏海
春の風邪われうわごとの馬の骨えなみ伸茶
巴里や春カタコンベの骨うかれだすえなみ伸茶
五月蝿反骨詩人みなしづかもとゆき
骨粗くなりたる心地よなぐもり平田雄公子
偏差値に抜かれし骨や卒業期平田雄公子
骨太の社員失せるや四月馬鹿岩田 勇
抗議文骨太なれど女文字岩田 勇
水温むとも骨残るオフェーリア悪留王
肋骨に音階生るる黄沙かなきっこ
ジェット機音骨身に沁みる春の闇高楊枝
骨髄バンクキャンペーン春寒し無六