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君と来しいつかの海は春の海  如月はつか

★傍らに「君」はいない、目の前に「海」はない、季節は今「春」ではない。この句の中に現在あるものは、ひとつもないのである。「春の海」としながらも、過去の思い出を反芻している秋の夜長を思わせる。(あき子)

白芙蓉海女は漁夫らを祈る日々  小林艶子

★海を生業とする夫婦がいる。海のありがたさも恐ろしさも人一倍よく知っている。知っているだけに、一旦海に入ったからには、その姿を見るまでは祈るしかない。人の命のもろさを思うと、海を向いて咲く白芙蓉が一層淡くはかなく見える。(あき子)

遠く来て今バリ島に秋の海  土井美知子

★旅先でふと、前にも出会った光景だと思うことがある。透き通った空を映す秋の海は、長く開くことのなかった心の抽き出しに、滑らかに入り込むのだろうか。神の島バリで作者が感じた「遠さ」は、日本との距離だけではなく、何者かとの心の距離ではなかろうか。思い出したくなければ、ここで止められる、そんな柔軟な優しさも合わせ持つ秋の波が寄せては返し、どこまでも続いている。(あき子)

秋の海砂を濯いで歩き出す  正

★足裏に付いた砂を海で落としている。すぐにまた砂浜を歩けば付いてしまうとは分かっていても、何度となく波打ち際で足を濯いでいる。秋の海の清澄なイメージと相まって、「濯ぐ」という文字が歩き出すという行為を、何かをリセットした気分にさせる。(あき子)

海を掃いて二百十日の風の道  大矢内生気

★玄界灘と前書きがある。そして玄界灘は荒れることで有名なのだという。その海を掃き、風の道が見えるのは、荒れ狂う風が波を分け、海がふたつに割れたかに思う瞬間をいうのだろう。翻弄されてみなければわからない恐怖がある。人間が科学という武器で何でも可能にしてしまうと思いがちな自分に喝が入る。(あき子)

不知火に片目開けたり深海魚  赤帆

★陰暦七月末の夜、九州の海上に浮かぶ火を、夜光虫のせいだとも漁火だとも。どちらにしても不思議がるのは人間ばかり。深海に住む魚たちには一向関係のないことである。深海魚のごとく片目だけぱちりと開き、浮かれる世の者どもにクールな視線を浴びせる作者は、また片目分の好奇心もしっかり持ち合わせているに違いない。(あき子)

抱えたるキャベツが海の香を放つ  岩淵喜代子

★一個丸ごとのキャベツ。外側の葉が大きくが宙へと翻っている。葉の下にはまた葉が、その下にもまた葉が芯に届くまでぎっしりと詰まっていると気づいた時、作者はまるで小さな海を抱き締めているような錯覚を覚えたのだろう。それはまさに命を育む潮風の匂い。(あき子)


予選句

島までの干潟となりぬかち歩く平石和美
春潮のみな我に来る室戸岬平石和美
君の髪絡まる潮はもどかしくここ
オリオンの調べにあわせ踊る雲波小林義和
波乗りの波裏返りては白し只野みつ子