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サングラス外して入る映画館   新木孝介

★映画館へは、放映されている映画作品への期待感を抱きながら入っていくだろう。その期待感が、自ずとサングラスを外すという行為に現れたのである。さり気ない日常の行動が、非日常への入り口になった。

花冷えや地下一階の映画館   宇陀草子

★(花冷え)という季語の本意に含まれるものは、華やぎと頼りなさだと思う。視覚では春の訪れを知るのに、体感的にはそれがない。そのかすかな齟齬を感じる季語である。それが、地下一階の映画館と呼応しあうのである。

新緑やシネコンロビーの大窓に   石井圭子

★シネコンとは、複数のスクリーンのある複合映画館のこと。作者は、そのロビーの大きな窓の新緑に目を止めたのである。これから観る映画に期待している足を留めさせた新緑は、ふとこれから観る映画の一駒が映し出されたものかと錯覚したのではないだろうか。そんな驚きを感じさせる鮮やかな新緑を切り取っている。

朧月映画の余韻に揺れながら   及川希子

朧夜や映画の中の一生涯   川村研治

★一句目は映画を見た後の朧月夜を仰ぎながらの帰り道。いま観たばかりの映画の物語に酔いながら、その酔いに自分の体が自然に揺れていくような感じがしているのである。
二句目は観たばかりの映画の中の物語の一生涯をあらためて辿っているのである。前者はその余韻を体感覚で、そうして後者は想念によって、その余韻に浸っているのである。
  どちらも朧の季語に集約させているが、偶然のようで必然なのかもしれない。

眩しくて名画座に籠もる五月かな   栗原良子

★眩しい五月という繋がりになれば、それはごく当たり前なことである。しかし、(眩しく)が名画座に籠もることに繋がるとき、内容は俄然人生的になる。何が眩しいのか、それは人それぞれが思い出す風景でいい。映画館の中で、かっても観たことのある映画に魅入って、こころを落ち着けようとしてている作者、そこになぜか共感できるのである。

水中花映画の街に風もなし   中村善枝

★各所に映画の街と呼ばれる場所があるようだ。映画のオープンセットがそのまま残された町、あるいは京都太秦のような撮影所のある町。現実でありながら、それは嘘っぽい空気を感じる場所である。
そんな街を作者は水中花と重ね合わせているのである。(風もなし)の一語によって映画の町と水中花が当分に配されて、水中花へ視点が寄せられてゆく。


予選句

映画館ひそと息する春夕べ五十嵐孝子
シネコンの舞台あいさつ青嵐五十嵐孝子
梅雨寒しシネマの帰り言葉なく五十嵐孝子
映画館出でて日傘を開きけり五十嵐孝子
月涼しシネマへ急ぐ金曜日五十嵐孝子
映画はねまた掛けはじむサングラス石井圭子
聖五月映画のやうな恋は無し石井圭子
ビール手に古き映画を褒めちぎる石井圭子
新緑やシネコンロビーの大窓に石井圭子
シネマはねのどにしみいるソーダ水石井圭子
映画館の暗闇匂ふ猫の恋岩淵喜代子
映画見し顔の淋しくなる日永岩淵喜代子
シネマはね夜光虫のゐる街へ岩淵喜代子
炎天のことに廃墟の映画館岩淵喜代子
踏みゆきぬ映画のつづきの霜柱岩淵喜代子
花冷えや地下一階の映画館宇陀草子
おぼろ夜やシネマのネオン一字欠け宇陀草子
燕の巣町に一軒映画館宇陀草子
かはほりや運河に落とすシネマの灯宇陀草子
街薄暑昭和レトロの映画館宇陀草子
走馬灯映画スターのプロマイド及川希子
ちんどん屋繰り出す春の映画祭及川希子
映画村芽柳そよぐ船着場及川希子
朧月映画の余韻に揺れながら及川希子
映画館閉じて街中更衣及川希子
六〇年代映画音楽春の夕大豆生田伴子
暮の春旧き映画を観てねむる大豆生田伴子
棕櫚の花眩しむシネマ館出でて大豆生田伴子
夏雲の明るさ映画のラストシーン大豆生田伴子
チャプリンの喜劇は哀し晩夏光大豆生田伴子
眠り人形抱いて薄暑の映画館岡本恵子
蚊喰鳥映画狂ひの神学生岡本恵子
十薬や悲恋映画の端役たち岡本恵子
釣しのぶ映画談議の午後三時岡本恵子
夏の果シネマ横切る影法師岡本恵子
映画館出て放心のソーダ水河邉幸行子
黒百合やかつて鉱山の映画祭河邉幸行子
立ち位置に日焼けの映画助監督河邉幸行子
シネマ果つ大夕立のひづみかな河邉幸行子
ポスターの古きも梅雨の映画館河邉幸行子
はるかぜや自由が丘のシネマ館川村研治
鳥雲に入る闇市と映画館川村研治
朧夜や映画の中の一生涯川村研治
羽蟻わつと溢れて映画フィナーレに川村研治
会場は校庭納涼映画会川村研治
池波忌映画狂(シネマディクト)は今も居る木佐梨乃
単館の映画帰りにソーダ水木佐梨乃
風光る六区通りの二番館木佐梨乃
映画館は涼む場所なりインド人木佐梨乃
短夜の別の人生映画見る木佐梨乃
眩しくて名画座に籠もる五月かな栗原良子
酌しつつ三人官女の映画評栗原良子
夜店連れて若大将のシネマ来し栗原良子
神社映画カンヌに飛ぶか聖五月栗原良子
雪姫のアニメにゑうてをる還暦栗原良子
映画館出でて鱸を買ひにけり兄部千達
アカシアの花の並木の映画館兄部千達
映画の海原思ふ日の盛り兄部千達
女郎蜘蛛映画のトリック込み入つて兄部千達
夏帽子脱ぎて地下へと映画館兄部千達
薫風や映画のはねて回り道小塩正子
行く春や古い映画の二本立て小塩正子
紅バラや映画スターのゐた昔小塩正子
虎が雨町の映画館閉ぢじられて小塩正子
梅雨晴れ間母に付き添ふ映画館小塩正子
ポプコーン冷房つよき映画館佐々木靖子
真夜に見るチャップリンの映画四月尽佐々木靖子
街角に風船配る映画祭佐々木靖子
暗がりにハンカチ動く映画館佐々木靖子
賑はひしシネマ通りや恋の猫佐々木靖子
手に汗を握りて見入るラブ映画志村万香
凌霄の花咲きみだる映画村志村万香
郊外のシネマ蒲田の羽脱鶏志村万香
ガーベラやムービーチャンネル色冴える志村万香
夏シネマ一切止まる思考力志村万香
緑なす映画のロケ地阿弥陀堂西方来人
片陰に台本読む子映画村西方来人
シネマ出て燕の空の眩しさよ西方来人
万緑や映画女優は素を見せて西方来人
映画史に光る寅さん祭り好き西方来人
映画跳ね肌に残りし草いきれ高橋寛治
夕焼けの色彩映画そのままに高橋寛治
シネマ出て鯰のごとき笑み浮かぶ高橋寛治
映画跳ね三度鳥肌夏の夜に高橋寛治
シネマ跳ね夏雲ぷかり浮いてをり高橋寛治
野外映画に春満月の昇りくる武井伸子
春雨や映画のつづきのやうに降る武井伸子
映画部は部員ふたりや花の頃武井伸子
映画館の座席に沈み春惜しむ武井伸子
草いきれシネマのやうに腕を組み武井伸子
春塵やバクダッドカフェあるところ辻村麻乃
春ショールローマの休日気取りては辻村麻乃
白夜光自己投影する物語辻村麻乃
ザンパノの握り拳の汗光る辻村麻乃
フェリーニの道へと続く大夕焼辻村麻乃
なんじやもんじや「恋は五・七・五!」といふ映画同前悠久子
夏休み従姉の映画館ありしこと同前悠久子
香水や映画のワンシーン幾度も同前悠久子
浮いて来い阿部寛見るシネマかな同前悠久子
名古屋で映画「ブルージャスミン」観たいから同前悠久子
夏来る床屋で見入る映画雑誌中島外男
映画村の抹茶一服新樹光中島外男
走り梅雨シネマ帰りの寄り道かな中島外男
夏休み妻とシネマに三年振り中島外男
夜の秋シネマ通ひも三日目に中島外男
映画より心鋭く蝉鳴けり中村善枝
冬深し黒き奈落の映画館中村善枝
水中花映画の街に風もなし中村善枝
映画館秋意を三つうみにけり中村善枝
春愁や本志をあぶる映画かな中村善枝
「寅さん」観る帝釈天のかき氷西田もとつぐ
「特攻機」銀幕に消ゆ雪霏々と西田もとつぐ
シネ歌舞伎義士討ち入りの陣太鼓西田もとつぐ
シネ歌舞伎幕切り落とす花の山西田もとつぐ
シネマ果て夜に佇む罌粟の花服部さやか
六月や深き椅子ある映画館服部さやか
春海の無声映画のごとくあり服部さやか
緑蔭や映画始まる時間まで服部さやか
映画館出でて銀座へサングラス服部さやか
猿にまたもどる映画や熱帯夜浜岡紀子
香水のうしろより来し映画館浜岡紀子
映画の闇ほたるの闇となりにけり浜岡紀子
口遊む映画主題歌更衣浜岡紀子
婚礼や映画のやうに薔薇の雨浜岡紀子
すみれ一束映画の券と手渡され浜田はるみ
ホラー映画悲鳴の中の万愚節浜田はるみ
ところてん人情映画腑に落ちて浜田はるみ
大泣きの映画終れば虹の街浜田はるみ
団扇揺れ通し校庭の映画会浜田はるみ
映画館在りし所や梅を干す牧野洋子
はじめての映画は母と桐の花牧野洋子
春光の街の外れの映画館牧野洋子
春服の吸ひ込まれゆく映画館牧野洋子
昔見し映画の話ソーダ水牧野洋子
ミモザ咲く小さき町の映画館宮本郁江
春の夜や母を誘ひて映画館宮本郁江
行列に蝶も加はる映画村宮本郁江
映画館はねて銀座の春の月宮本郁江
夏燕広場の前の映画館宮本郁江
シネマ出て柳の雨に打たれけり山内かぐや
街青梅映画看板屋根の上に山内かぐや
みどりの日ポプコーン抱へシネマかな山内かぐや
シネマとは草原幌馬車字幕かな山内かぐや
ハングル映画君子豹変春の雷山内かぐや
歩行器の並んで映画麦の秋山内美代子
映画館癖になりさう更衣山内美代子
映画見て大空間のビヤホール山内美代子
映画館の席ぎしぎしと雨季に入る山内美代子
映画はね銀座の路地の別れかな山内美代子
映画館の椅子を揺すりて春の地震あべあつこ
春愁や映画見てきし夜のワインあべあつこ
映画館出でて涼しき黙の中あべあつこ
夏の宵シネマの闇へ急ぎけりあべあつこ
黴の香や駅前シネマ閉館すあべあつこ
ホラー映画の後味のまま別れの春阿部暁子
ハリーポッター好きと嫌ひの花筵阿部暁子
サングラス独り単館映画館阿部暁子
海風にファミリー映画気取る夏阿部暁子
映画抜けてオープンカーの夜の首都高阿部暁子