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春休み息吹きかけて硝子拭き 黒田靖子

何でもない日常の行動のようだが、春休みであることで、新しい学校生活への期待、希望が感じられる。

冴返りくもりガラスに「春」と書く 鈴木まさゑ

本当に春に早くきてほしいという気持ちを示しているようでもあるが、くもりガラスであることもあり、何かとりとめないような、少々鬱々とした気分が感じられる。

背に熱き冬日硝子を捨てに行く 谷原恵理子

冬でも日差しが強いときには「背に熱き」と感じることもあるが、この句の場合は心理的な影響も考えられそうである。捨てると言っても、硝子を捨てるときは、普通のゴミとは違って、なにか胸中に波立つものがありそうである。

ガラス窓唇ふるる春の宵 中﨑啓祐

窓に近寄って外を見ているとき、額がぶつかってしまうときもあるが、あるいは近づきすぎて唇が触れてしまうことがある。折から春宵の気分からはっとしてしまったのだろうか。身体的感覚が心に影響を与える好例と言えるかもしれない。

蝋梅は硝子の雫こぼしけり 佛川布村

蝋梅の花の透きとおるような花びらから雨雫がこぼれるときの様子を美しく描写するのに、「硝子」を比喩につかって成功したのではないだろうか。

陽炎うて一人で運ぶガラス板 和智安江

この句の場合は「捨てる」のではなく、「運ぶ」のであるから、一層神経を使う作業であろう。しかも「一人で」でもあることであるから、尚更であろう。ガラス板が自分の運命のような重さを感じさせる。

佐保姫くる硝子の靴を脱ぎ捨てて 浜岡紀子
春立つや硝子の靴を脱ぎ捨てて 阿部暁子
冬尽くる硝子の靴を棚に置き 岩淵喜代子
春の夢ガラスの靴のお姫様 鬼武孝江

今回の「硝子」の兼題から、四人の方から
「硝子の靴」の句が出てきたことが興味深い。靴がガラスであることは、美しく冷たい束縛のようなイメージを抱いているのだろうか。生き生きと春を迎えるための一つの儀式を考えると、「ガラスの靴」はうってつけである。
我々は兼題として「ガラス」が与えられてがために、このような作品を得ることができたことを思うと、どんな兼題を掲げるかが重要な意味を持ってくることを改めて思う。


駱駝積む硝子壺なり漱石忌栗原良子
サイフォンの湯気立つ店舗ガラス躰栗原良子
ふろふきを載せて欠け知る硝子鉢栗原良子
「ガラカメ」に夢中長女は足焙り栗原良子
硝子戸の歪みこそ佳き冬の庭栗原良子
据りよき硝子壜なり木瓜を挿す黒田靖子
硝子越し歪んで見ゆる冬木立黒田靖子
電球の硝子のやうな薄氷黒田靖子
冬至の湯結露の硝子に母の名を黒田靖子
春休み息吹きかけて硝子拭き黒田靖子
子守宮はガラス窓にて休みをり兄部千達
蝶はビルの窓ガラスに沿ひ上る兄部千達
硝子瓶に蝌蚪の群るるや陽のさして兄部千達
野菜種ガラスの瓶で浸しをり兄部千達
桐の花ガラス花瓶に挿してみる兄部千達
白息を吹きかけながらガラス拭き小塩正子
霜柱ガラス細工の砂時計小塩正子
雀の子磨きガラスに体当たり小塩正子
ガラス越し冨士迫りくる冬の朝小塩正子
初参りガラスの干支のストラップ小塩正子
硝子戸の向かうの野原雪しまき西方来人
赤の濃きステンドグラス絵踏みかな西方来人
春の日や透ける硝子に鼻を打つ西方来人
硝子吹く安曇野工房陽炎へり西方来人
草萌や硝子のやうな恋ごころ西方来人
久女忌や微塵の硝子掃き寄する佐々木靖子
鍬始め刃先にあたる硝子片佐々木靖子
硝子戸の中かるた読む母ありき佐々木靖子
餅焼くや硝子障子にのぞく顔佐々木靖子
硝子窓着ぶくれて婆やつてくる佐々木靖子
千億のガラスの破片冬銀河末永朱胤
世のガラス割れ尽くすまで冬の薔薇末永朱胤
日脚伸ぶ便箋に置くガラス玉末永朱胤
冬果てぬガラスの花器に紙の花末永朱胤
冴返りくもりガラスに「春」と書く末永朱胤
風花や硝子吹くたび回すたび鈴木まさゑ
硝子戸に映らぬものへ豆を撒く鈴木まさゑ
恋猫の恋の初めの硝子窓鈴木まさゑ
硝子戸へ闇の満ち来る猫の恋鈴木まさゑ
少年の硝子の心黄水仙鈴木まさゑ
薄氷やガラスの針をちりばめて高橋寛治
冬銀河ガラスの中の阿修羅かな高橋寛治
冴ゆる夜のガラスの天使闇を落つ高橋寛治
冬の蝶映ゆるガラスに紛れたり高橋寛治
風光る都会はガラスの万華かな高橋寛治
硝子戸に守宮の手足夜の深し武井伸子
硝子一枚虎河豚と目の合ひぬ武井伸子
硝子戸の中の団欒雪もよひ 武井伸子
雪原に硝子の杖を置いて来し武井伸子
風光る池に硝子の波がしら武井伸子
初雪や海は硝子となり眠る谷原恵理子
硝子窓大き家より冬銀河谷原恵理子
硝子の靴どこにもなくて二月尽谷原恵理子
背に熱き冬日硝子を捨てに行く谷原恵理子
三寒やぎやまんの窓に歪む森谷原恵理子
白梅や硝子のやうな谷の日に近本セツ子
路地奥に硝子工場忘れ雪近本セツ子
水温む硝子の皿の絵文字にも近本セツ子
フリージア硝子の壷に余るなり近本セツ子
絵ガラスを徹る日差しに卒業す近本セツ子
硝子玉繋げたやうな氷柱橋辻村麻乃
硝子から雛の見てゐる銀座かな辻村麻乃
御用邸春日を爪弾く板硝子辻村麻乃
貝寄風の硝子のごとき海の面辻村麻乃
凍戻るスマホの硝子とにらめつこ辻村麻乃
諏訪湖にはラリックの硝子涼しかり同前悠久子
魅せられて通ひし夏の硝子美展同前悠久子
春光や硝子戸の縦線眩しくて同前悠久子
春風に波打つ硝子大正の同前悠久子
凍てしとふスワロフスキーの硝子の部屋同前悠久子
風鈴の硝子絵の鳥風を待つ 豊田静世
指で描く硝子に酉と初湯殿 豊田静世
冴え返る硝子の鍋蓋砕け散る 豊田静世
てらてらと夕焼け燃やす古硝子 豊田静世
人は地に硝子の水に水中花 豊田静世
狼の声砕け散るガラス玉中﨑啓祐
ガラス窓水滴光り寒に入る中﨑啓祐
ガラス窓唇ふるる春の宵中﨑啓祐
ガラス絵のほの白き肌雪女中﨑啓祐
ガラス玉春の気泡をつつみこむ中﨑啓祐
浴室のガラスに一句筆始め中島外男
冬満月心の中は硝子張り中島外男
しぐるるやガラス囲ひのレストラン中島外男
硝子戸の格子に一匹冬の蠅中島外男
初日記ボールペンからガラスペンに中島外男
ガラス窓のくちづけ熱く出征す西田もとつぐ
緑内障視野に散らばるガラス片西田もとつぐ
緑内障視野の彼方の初日の出西田もとつぐ
立春の日射しのかかる片目かな西田もとつぐ
瑠璃ガラス淡海の春をうたがはず西田もとつぐ
雪女ガラスの箸を使ひけり浜岡紀子
佐保姫くる硝子の靴を脱ぎ捨てて浜岡紀子
如月は硝子のなかにゐるやうな浜岡紀子
綿虫の消えてガラスのやうな月浜岡紀子
白鳥に硝子の柩用意する浜岡紀子
海円く切りガラスの氷下魚釣る浜田はるみ
耳隠しガラスの目持つ雪女郎浜田はるみ
多喜二忌や突然硝子割れる音浜田はるみ
春の日の硝子箱なる電車かな浜田はるみ
龍天にびりびり硝子震へけり浜田はるみ
ぐらぐらと硝子の火玉冬夕焼牧野洋子
硝子製の骨壺もあり寒夕焼け牧野洋子
硝子戸を隔てて外の猛吹雪牧野洋子
初茜ビルに一枚の大硝子牧野洋子
春の池少し歪みし色硝子牧野洋子
春近し硝子の中の新生児宮本郁江
立春の傍聴席は硝子張り宮本郁江
覗きこむ硝子ケースに桜餅宮本郁江
立春の硝子戸過ぎる郵便夫宮本郁江
春の雲硝子窓拭く命綱 宮本郁江
ガラスの目のAIとゐる雪の夜村瀬八千代
硝子器を透きくる光春来る村瀬八千代
硝子戸に触れて温しや日曜日村瀬八千代
そつと観る硝子越しなる目白かな村瀬八千代
春愁や我貌のある夜の硝子村瀬八千代
田に水の硝子のごとき田植ゑ前山内美代子
花の昼息吹きかけて硝子拭く山内美代子
花の窓声張り上げて硝子越し山内美代子
硝子越し窓いつぱいの花明り山内美代子
鉢椿葉のつややかに硝子越し山内美代子
麗らかや硝子の壁で仕切る部屋山下添子
冬落暉凪の海原硝子めく山下添子
冴ゆる月雲連れ渡る硝子窓山下添子
マスクして硝子の箱の赤子視る山下添子
春の日の王の名記す硝子ペン山下添子
鳥帰る観音開きの硝子窓和智安江
ガラスの靴履くこともなく目刺し焼く和智安江
陽炎うて一人で運ぶガラス板和智安江
身にしむや古代硝子に兎烏の色和智安江
硝子越しにいるかを触る男の子和智安江
待春の色のあふるる硝子吹く浅見百
蜃気楼仏のまなこに硝子玉浅見百
月おぼろ古墳に眠る硝子玉浅見百
息白し明治の硝子戸磨きをり浅見百
氷結す一枚ガラスのリンクかな浅見百
硝子戸は冬の農夫と吾を隔つあべあつこ
冬景色荷台に硝子運ぶのもあべあつこ
川の灯を映す硝子戸おでん酒あべあつこ
時雨寒ヘルン旧居の窓硝子あべあつこ
桜貝集めるによき硝子瓶あべあつこ
満月の凍つて硝子の六本木阿部暁子
春立つや硝子の靴を脱ぎ捨てて阿部暁子
踊る子に雪舞ひをりぬ硝子窓阿部暁子
三月や硝子の心の三歳児阿部暁子
春日受くヴェネツィアグラスのネックレス阿部暁子
囀の硝子に撥ねる朝かな新木孝介
巣箱から硝子の滴こぼれおつ新木孝介
長閑さや天井までの硝子窓新木孝介
硝子戸に人影の立つ彼岸かな新木孝介
リラ咲けば炭酸水の硝子瓶新木孝介
冬銀河割れた硝子の体温計五十嵐孝子
ガラス玉手にしてみれば竜の玉五十嵐孝子
硝子板踏むやうにして御神渡り五十嵐孝子
サイフォンのガラスの滴初桜五十嵐孝子
ゆらめいてガラスのピアス寒昴五十嵐孝子
「の」を書いた硝子の向かう寒波来る石井圭子
硝子瓶触れ合ふ音や冬の夜石井圭子
冬ざれの赤城山ある硝子窓石井圭子
冬銀河どこかで硝子割れる音石井圭子
初市で買ふ鶏の硝子細工石井圭子
硝子戸を砦に短夜の日記岩淵喜代子
梟に硝子のやうな爪があり岩淵喜代子
梟や寄れば曇りし硝子窓岩淵喜代子
冬尽くる硝子の靴を棚に置き岩淵喜代子
硝子戸に集まつてくる春の雲岩淵喜代子
山眠る音楽室の硝子窓宇陀草子
冬薔薇一輪細き硝子瓶宇陀草子
硝子窓磨くや日脚伸びてをり宇陀草子
聖堂の絵硝子に這ふ冬の蠅宇陀草子
硝子窓いつぱいに山笑ひけり宇陀草子
硝子窓息吹き掛けて煤払及川希子
冬ざるる硝子戸はまる古墳室及川希子
ねんねこの子の眼を映す硝子窓及川希子
硝子戸へ顔おしあてて雪見かな及川希子
初日待つエレベーターは総硝子及川希子
さしぐむや硝子のやうな冬の月大豆生田伴子
捨ててきし硝子の小壜冬の雷大豆生田伴子
遥かとは硝子越しなる雪の嶺大豆生田伴子
朧月硝子に映りなほ朧大豆生田伴子
硝子器に早春の日のはづみをり大豆生田伴子
冬麗の硝子となりぬ木も鳥も岡本惠子
硝子窯火を入れぬ日や白椿岡本惠子
おそろひのガラスの指輪花林檎岡本惠子
冬の蠅ガラスの心臓抱いてゐる岡本惠子
霜柱硝子の町の字小字岡本惠子
春寒し硝子の曇り拭ふ指鬼武孝江
一枚の硝子の外に白木蓮鬼武孝江
網入りのガラスをつたふ春の雨鬼武孝江
春の夢ガラスの靴のお姫様鬼武孝江
軽き音ラムネの瓶の硝子玉鬼武孝江
星空へガラスのやうな冬りんご佛川布村
鯨啼き止みて硝子に戻る海佛川布村
寒紅を引いて硝子の顔になる佛川布村
蠟梅は硝子の雫こぼしけり佛川布村
立春の硝子を割つて来るごとし佛川布村
猫の子がときどき触れるガラス玉河邉幸行子
枯芙蓉を一花としたり硝子瓶河邉幸行子
ガラス玉吹く工房の戻り寒河邉幸行子
硝子戸の開け閉てさはに春立てり河邉幸行子
待春の雲をとらへしガラス窓河邉幸行子
鬱々と硝子の部屋の海鼠かな川村研治
雪止んで硝子の星の降ることよ川村研治
ガラスのうさぎ抱く少女よ春を待つ川村研治
きさらぎやガラスの箱がのぼりゆく川村研治
春星は硝子の筥にしまふべし川村研治
慎重に硝子を折る手日脚伸ぶ木佐梨乃
冬暁に「ガラスの仮面」を読み耽る木佐梨乃
春めいて硝子の気泡にある宇宙木佐梨乃
古硝子に透かしてみれば春時雨木佐梨乃
春風を紡ぎ出すなり硝子ペン木佐梨乃
晩年の硝子絵が佳し春霞木津直人
春潮やガラスの中の土産売り木津直人
霾や硝子細工に木々の影木津直人
霾やガラス戸越しの神保町木津直人
ガラス澄み残雪すべて見えつくす木津直人