今までの兼題

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第45回近江、淡海第46回時計第47回正座第48回手足
第49回引力第50回受信第51回凡人第52回書架・書棚
本棚・書庫
第53回進化第54回硝子第55回暗闇第56回猛犬
第57回坩堝第58回位置第59回青森第60回模様
第61回王様第62回四角第63回半島第64回懸垂
第65回全身第66回回転第67回珈琲第68回反対
第69回夫・妻第70回隣人第71回危険第72回書類
第73回眼鏡第74回午前・午後第75回人形第76回世界
第77回仲間第78回教室第79回椅子第80回阿吽
第81回土地第82回煙突第83回階段第84回曖昧
俳句投稿の受付は、終了いたしました。

今回は「書架・書棚・本棚・書庫」と目に見える身近なものであるから、俳句にしやすいと思いきや、それだけに同じ様な発想になりやすく、いつも通り皆苦労したのではないだろうか。手近なものから、いかに想像力を遥かなところまで泳がせることができるか、ひとりひとりが試されたように思う。

書架を這ふ蟹に学者の面構へ 高橋 寛治

四角張った顔に眼のとび出した蟹に対して「学者の面構へ」とはよく言ったものと感心させられる。それだけに「書架を這ふ」という場面設定が殆んど意味をもたない上に、学者らしさを意味づけしているようで、勿体無い。兼題から得られた発想ではあろうが、この句に関しては兼題をはなれて飛躍させることも考えられそうである。

ほうたるの書庫にふぶきて水の香す 武井 伸子

ほたるは古今、文学上でいろいろと取り上げられているから、「書庫」は思いつくかもしれないが、「書庫にふぶき」とまでは中々言えないだろう。ただ、ほたるが水に縁のあるものだけに、下五の「水の香す」は言わずもがなという印象がある。上五中七の内容だけに絞って十分のように思われる。

初蝉や本棚の本ぎゆうぎゆうに 辻村麻乃

不思議な感覚だ。本棚にはいっぱいに本が詰め込まれており、これ以上は一冊も入らない。いずれ何かが押し出されて、別の一冊が入るのだろうか、と思わせておいて、「初蝉」とくる。「初蝉」も止むに止まれぬ時を得てこの世に押し出されるようにして初めての声を上げるのだ。

寝そびれて書庫にびつしり黒揚羽 岩淵喜代子

寝ずに頑張っている夜と、一旦寝ようと思って床についたのだが、寝そびれている状態の「夜」とは意味合いが違うような気がする。寝そびれたときの夜は、不連続的にやってくる、一種別次元の「夜」であるように思われる。そんなときにはびっしりと書庫に黒揚羽がいるという幻視に捕らえられてしまうのではないだろうか。

死してなほ玉虫として本棚に 大豆生田伴子

玉虫の美しさは人智の及ばぬところにあると言っていいだろう。死してなおその美しさを保つことができるのは、玉虫しかないだろうとさえ思われる。この句の場合の兼題の「本棚」は、きっかけにはなったのだろうが、句が出来上がってからは、題はそれほど重要とは思われない。なお、玉虫の本質をつきつめて考えれば、「死してなほ」というよりも「死してこそ」としても味わいがあるように思われる。


予選句

我が書架に雪崩が起きて怪我も無し木佐 梨乃
我が書架の有限なるや春の塵木佐 梨乃
夏未明電子の書庫も目一杯木佐 梨乃
天の川藤子不二雄の書架へ行く木佐 梨乃
齧りかけリンゴを書架にひよいと置く木佐 梨乃
野分くる書庫のガラスに青き群れ木津 直人
書庫眠る八月我も夢を見し木津 直人
かなかなや老書架にわが菓子の跡木津 直人
秋の蜘蛛が浮きつつ帰る書庫の闇木津 直人
星の夜の書架万物に見透かされ木津 直人
書架に倚るままにアイスの三本目栗原 良子
夏果ての書庫や果てまで眠りをり栗原 良子
本棚の八冊選び野分かな栗原 良子
沿線の書棚の並ぶ秋祭り栗原 良子
こほろぎの潜みし書架や方丈記栗原 良子
書架整理すぐに頓挫の夏休み黒田 靖子
夏季展示書架の漱石初版本黒田 靖子
曝書する書棚の隅に母の文黒田 靖子
本棚に英治や邦子や周五郎黒田 靖子
盆休み縦横に積む本棚よ黒田 靖子
ガガンボの隠れ場所かな夜の書架兄部 千達
書庫の窓花野遠くに搖れてをり兄部 千達
本棚の整理整頓小鳥来る兄部 千達
書庫の本を読み直して冬籠る兄部 千達
炉明かりに書架の凹凸浮かびけり兄部 千達
断捨離の書架の隙間を若葉風小塩 正子
忌々し書架に逃れし油虫小塩 正子
ごきぶりよ本棚は住処にあらず小塩 正子
宿題は本箱作り夏果てぬ小塩 正子
昼寝覚書棚に戻す智恵子抄小塩 正子
梅雨明けや書架から抜きし薬草本西方 来人
耐火書庫黴の古文書曝しをり西方 来人
本棚の隙間に寝入る秋子猫西方 来人
秘の文書しまふ地下書庫冷まじや西方 来人
新涼や書棚に並ぶ新刊本西方 来人
天牛とまんが大好き児の本棚佐々木靖子
生身魂持薬を書架にひとり住む佐々木靖子
半世紀を俱にある書架秋の蝉佐々木靖子
本棚の跡くつきりと夏座敷佐々木靖子
父の忌のかび臭き書庫開け放つ佐々木靖子
本棚に薄笑ひあり桜桃忌島崎 正彦
本箱の隅の玩具や梅雨に入る島崎 正彦
本箱に探偵団待つ夏休み島崎 正彦
本棚に溢れる夢を更衣島崎 正彦
漱石の並ぶ書棚や日雷島崎 正彦
本棚に自作の本や秋深し志村 万香
そこかしこ書庫を探して秋となり志村 万香
うつすらと書棚を照らす月朧志村 万香
読みかけの書庫のなかにも蝉時雨志村 万香
秋読書鼓動の音や波の果て志村 万香
梅雨明けず書架に人の名おびただし末永 朱胤
動かざる夏雲とゐる書庫の窓末永 朱胤
本棚の陶器の兵士夏を知らず末永 朱胤
夏の果てたづねるごとく書庫開く末永 朱胤
気のつけば書架にもたれて夜の秋末永 朱胤
書架奥のチャタレイ夫人火取虫鈴木まさゑ
本棚の最上段に登山靴鈴木まさゑ
河童忌や書架の全集墓碑のごと鈴木まさゑ
紙魚もまた本棚を出ず空を見ず鈴木まさゑ
灯せば書庫に明暗夜の秋鈴木まさゑ
七月の書架にピエロの玩具置く高橋 寛治
梅雨の書庫寄り目して見る鼻の先高橋 寛治
書架を這ふ蟹に学者の面構へ高橋 寛治
書庫に満つる呪文の渦や蚊の悲鳴高橋 寛治
七月に死体となつて書庫を出る高橋 寛治
さみだれの書庫の暗きに安んじて武井 伸子
ほうたるの書庫にふぶきて水の香す武井 伸子
本棚の聖書抜きとる大西日武井 伸子
こんこんと書架の暗がり泉湧く武井 伸子
万緑や遺跡めいたる書庫に入る武井 伸子
盆の家書棚に探す青年期谷原恵理子
大夕焼け書棚は時に騒めいて谷原恵理子
書架に沿ふキャットウォーク星祭谷原恵理子
雷鳴やホテルの書庫を探検す谷原恵理子
兜虫本棚の裏にゐる気配谷原恵理子
青葡萄おきて書棚の小世界近松セツ子
涼新た書架に南吉童話集近松セツ子
昼過ぎの書庫しんかんと鶏頭花近松セツ子
本箱やおもちやのやうな守宮出で近松セツ子
本棚に探しものして夜蝉かな近松セツ子
夏休み書庫で見つけし狐面辻村 麻乃
初蝉や本棚の本ぎゆうぎゆうに辻村 麻乃
無人駅書棚貼り紙葉月尽辻村 麻乃
籐椅子の書架を眺める揺れ具合辻村 麻乃
書棚には革の蔵書や夏暁辻村 麻乃
秋立つや書架には白き画集立つ同前悠久子
CD棚元文庫本書架秋の声同前悠久子
葡萄の絵掛くる本棚近き壁同前悠久子
本棚に未だ父の本葛の花同前悠久子
秋夕陽図書館の書庫ガラス窓同前悠久子
曝書する書庫の古文書次世代へ 豊田 静世
書庫の端のらくろに棲むきらら虫 豊田 静世
本棚と野菊置かるる娘のトイレ 豊田 静世
亀鳴くや転勤ごとの書架整理 豊田 静世
本棚に吾のヒストリー木葉木菟 豊田 静世
茉莉花や書棚からでるウィスキー中﨑 啓祐
書棚から本あふれだす熱帯夜中﨑 啓祐
万緑や本棚の跡白きまま中﨑 啓祐
からつぽの書棚に光る蛾の鱗粉中﨑 啓祐
ダリヤ大輪書棚の本を埋めつくす中﨑 啓祐
梅雨のカフェ書棚の聖書手にとりて中島 外男
梅雨深ししの笛吹いて書庫の中中島 外男
梅雨夕焼け書架に並びし妻の日記中島 外男
熱帯夜書架をあされば漢方薬中島 外男
夜の秋何するとなく書庫の中中島 外男
震災忌雪崩れる書架に妻の声西田もとつぐ
古本の紙魚の間の大昼寝西田もとつぐ
壁泥の捨てねばならぬ稀覯本西田もとつぐ
書架崩壊「フクチャン」の漫画飛び出せり西田もとつぐ
燈火親し日々薄れ行く文字世界西田もとつぐ
本棚にやませの抜ける隙間かな服部さやか
麦秋の書架に少しの隙もなく服部さやか
本棚に隠した手紙夏果てぬ服部さやか
草笛に列を正せり書架の本服部さやか
本棚にもたれ風鈴鳴り止まず服部さやか
竜淵に潜み本棚安定す浜岡 紀子
天窓は星の本棚秋のこゑ浜岡 紀子
山霧の匂ひのこもる書庫開く浜岡 紀子
月光に濡れ廃屋の本棚は浜岡 紀子
客船に備へる書架や天の川浜岡 紀子
本棚に貝殻を置く夏休み浜田はるみ
百科事典書架に戻してソーダ水浜田はるみ
本棚の後ろひまはり立つてをり浜田はるみ
本棚の向かうの自由夏銀河浜田はるみ
本棚に隙間のできて帰燕かな浜田はるみ
一部屋を書棚で区切る新学期 牧野 洋子
売店の書棚に飾る草の花牧野 洋子
夏休み書棚の前の母と子と牧野 洋子
本棚に赤いミニカー原爆忌牧野 洋子
覗き込む書庫の窓から百日紅牧野 洋子
夕暮の書庫に浴衣の父をりぬ宮本 郁江
耳動く書棚の側の籐寝椅子宮本 郁江
漂流記書架に戻して避暑地去る宮本 郁江
朝顔の蔓の延びゆく書庫の窓宮本 郁江
小鳥来る母の座りし書架の椅子   宮本 郁江
短夜の書架に小さく悲恋本村瀬八千代
本棚に新刊図書や星涼し村瀬八千代
潮騒の二階の書庫の西日かな村瀬八千代
森深く古城の書庫の青大将村瀬八千代
雪渓の山並書庫に風わたる村瀬八千代
締切といふ二文字を梅雨の書架山内かぐや
書架に倚り梅雨の最中のヒッチコック山内かぐや
梅雨明けにひつそり書棚ごみの日に山内かぐや
朝焼の夏の五光が本棚に山内かぐや
残暑なり薄きほこりの本棚に山内かぐや
出窓暑し本積み上げる棚となり山内美代子
本箱の本整へて爽やかに山内美代子
本棚を背にしてはるか秋の富士山内美代子
手作りの書架は上出来天高し山内美代子
本棚の本にてかてか大西日山内美代子
本棚の創りし迷路麦の秋山下 添子
山上の永青文庫風薫る山下 添子
子の書架の昆虫図鑑夏きたる山下 添子
花は葉に書棚の隅に死語辞典山下 添子
一面の書架に言葉の泉湧く山下 添子
本棚にカフカの変身雁帰る和智 安江
梅雨寒や書架にピカソの見つからず和智 安江
書棚からはみ出す雑誌暑気中和智 安江
本棚の本色褪せて冬隣和智 安江
海底の書架はからつぽ海鼠鳴く和智 安江
本棚に文字なき絵本合歓の花浅見  百
夏休み自分の本箱出来上がる浅見  百
病葉やゴーストライターの隠れ書庫浅見  百
川底に壊れた本箱河鹿鳴く浅見  百
新盆や書肆から届く「旅特集」浅見  百
ひそと話す書棚の隅や夏休みあべあつこ
書庫の窓雲の峰へと続きけりあべあつこ
図書館の書架に涼しくすれ違ふあべあつこ
薔薇一花書棚を飾る六畳間あべあつこ
夏幾たび書架の絵本を手放せずあべあつこ
黄落や横文字ばかり並ぶ書架新木 孝介
月の夜の書林の奥へ誘はるる新木 孝介
本棚の死者語り出す夜長かな新木 孝介
ラフランス英雄たちの眠る書架新木 孝介
本棚の裏に本棚木の実落つ新木 孝介
書架の書の傾くままに梅雨晴間五十嵐孝子
本棚の本あふれゐて五月闇五十嵐孝子
書架の書の高さ違へて遠花火五十嵐孝子
書架を背に頁めくりて夕端居五十嵐孝子
本棚に背中あづけて遠花火五十嵐孝子
夏靴や書庫へと風を連れてゆく石井 圭子
夏木立のやうな書庫へ迷ひ込む石井 圭子
海の日や書棚一段空にする石井 圭子
本棚に眠つたままの暑い夏石井 圭子
虫干しの書棚の傷に覚えあり石井 圭子
書架飾る富士の画集の大初日伊丹竹野子
伊丹市史冷え冷えとある大書棚伊丹竹野子
書庫を出て虫干しさるる良き書物伊丹竹野子
虫干しや先づは辞典の書庫開く伊丹竹野子
大津絵の鬼出づ秋の書棚なり伊丹竹野子
緑陰の続きのやうな書庫に入る 岩淵喜代子
寝そびれて書庫にびつしり黒揚羽岩淵喜代子
青葉木菟書架の隣に書架を足し岩淵喜代子
本棚に置くさみどりの落とし文岩淵喜代子
書庫なのか船底なのか青嵐岩淵喜代子
緑さす書庫三角の埴輪の眼宇陀 草子
本棚の背文字の金や梅雨深し宇陀 草子
本棚の中段に置く蛍籠宇陀 草子
天井扇古書店の棚撓り癖宇陀 草子
本棚もある緑陰の蚤の市宇陀 草子
梅雨深し書棚の扉閉ぢしまま及川希子
枇杷実り書庫の窓辺を灯しをり及川希子
夏燕書棚の窓のはめ殺し及川希子
本棚の本もたれ合ふ夏座敷及川希子
夏座敷書架に納まる銀の皿及川希子
仄暗き書庫の居心地桜桃忌大豆生田伴子
本棚に横積みの箇所朝曇大豆生田伴子
死してなほ玉虫として本棚に大豆生田伴子
来し方をひらく書架なり夕涼し大豆生田伴子
夜の秋夢の詰まりし子の本棚大豆生田伴子
梔子や書架に一冊分の空き岡本 恵子
本棚の砂を払ひぬ避暑の家岡本 恵子
台風来海の匂ひの書架の風岡本 恵子
色鳥や兄へと放る書庫の鍵岡本 恵子
書庫出でてまた秋蝉のこゑ戻る岡本 恵子
孫の手と本箱作る夏休み鬼武 孝江
本棚にならんで涼し文庫本鬼武 孝江
秋の風書棚で転ぶ本見つけ鬼武 孝江
長き夜に遅々と進まぬ書庫整理鬼武 孝江
書架聖書書庫内温度氷点下鬼武 孝江
アイスティー本棚のある突きあたり河邉幸行子
若者の去りし書棚の草いきれ河邉幸行子
本棚にみやげの張子地虫鳴く河邉幸行子
書庫めぐる紙魚の遁走追ひきれず河邉幸行子
本棚に英治全集カンナの黄河邉幸行子
本棚をこはし螢を解放す川村 研治
本棚にとほき片隅桜桃忌川村 研治
星祭る書棚の深き眠りかな川村 研治
本棚に霧が充満してゐたり川村 研治
病院の書架より借りる月の舟川村 研治