今までの兼題

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ふるさとの暗闇揺らす新樹かな 西方来人
暗闇を揺さぶつてゐる桜かな 武井伸子

「ににん」六八号の兼題は(暗闇)である。(闇)と(暗闇)は同じではない。前者は心情的な不安や迷いを内包しているが、「暗闇」というときには、物理的、物体的な空間感触がある。一句目の暗闇は作者のふるさとなのである。その暗闇を新樹が揺らしているのだ。
二句目も桜が暗闇を揺さぶっていると、暗闇を物として捉えている。

暗闇に眼がなれてきし田植道 宇陀草子
暗闇の赤い椿とわかるまで 鈴木まさゑ

「暗闇」が視覚的に詠われている。一句目、見知っている田植道ではあるが(眼がなれてきし)によって、昼間見る植田の緑とは違う植田が浮き上がる。二句目も闇を凝視することで探り出した赤い椿であることが魅力的だ。どちらの句も闇を背景とすることで、明るい中のそれとは違う青田と赤い椿を引き出している。

やはらかや暗闇さへも春めける 栗原良子
ひとりづつ暗闇に佇つ螢の夜 近本セツ子
暗闇に手足を残し昼寝覚め 服部さやか

三句いずれも暗闇を提示することで、自身を確認している。
一句目は(暗闇さへも春めける)によって、暗闇の持つ冷たさが意識の中にあるのを知る。暗闇しか映像がなく、一見シュールな句になるところだが、季語の(春めける)が内容を展開させてくれるのである。
二句目をあえて螢狩の光景と取らなくてもいい。暗闇のなかのある場面を切り取ればこうした光景になる。それを螢と結び付けたところに、詩の世界を作り上げた。
三句目、(暗闇に手足を残し)は目覚めたときの遠近感覚を明暗に言い換えているのである。この置き換えによって、作者の内側での覚醒してゆく過程を映像で表しているのである。

暗闇の蝌蚪の国には音もなし 兄部千達

この句の魅力は、「暗闇の蝌蚪」に視点を留めたことにある。どれが蝌蚪なのかどれが暗闇なのか定かでないのに、音もないことを加えて、蝌蚪の国を完結させているのである。

くらやみにいきなり始まる猫の恋 中島外男

真夜中の屋根の上から、あるいは庭から突然恋猫の奇声が聞えてきて驚くことがある。一句は中七の(いきなり始まる)によって、恋猫の凄まじさが見え、その声に驚いている作者が見えてくる。

暗闇のしたたるごとく花の雨 末永朱胤

花の雨、それも夜の雨を眺めていたようだ。この雨でことしの桜も終わってしまうという感慨に耽って眺めていたかもしれない。この句にはそうした時間の推移が感じられる。そうして暗闇の滴っているような雨を見つけ出している。

暗闇の路地から路地へ風の盆 佐々木靖子

風の盆をきわめてさり気なく詠みあげた作品で、説明も要らない平明な叙述である。しかし、その差し出された光景に、読み手は様々な想像を託して、風の盆の光景を完成することができる。

梟や瞳閉づれば暗闇に 島崎正彦

 二句一章の取り合わせで得た詩情の濃い一句である。梟は夜行性の生き物である。当り前だが瞳を閉じた世界はなにも見えない暗闇となる。作者はその目を閉じた暗闇の世界に梟を誘い込んでいるのである。


梅の香の漂ひてをり暗闇に黒田靖子
暗闇に浮かぶ桜の仄白く黒田靖子
暗闇に紛れ黒猫滑り込む黒田靖子
暗闇に蛍の乱舞見まく欲し黒田靖子
暗闇に鳴くを待ちをり青葉木菟黒田靖子
春北風は暗闇めざし吹いてをり兄部千達
暗闇の蝌蚪の国には音もなし兄部千達
潮溜りだぼ鯊擬態の暗闇兄部千達
鼻曲鮭暗闇の軒に吊るされ兄部千達
月夜茸暗闇の魔女の如く兄部千達
更衣終へて箪笥は暗闇に小塩正子
自販機の照らす暗闇蛙鳴く小塩正子
新緑の作る暗闇こぬか雨小塩正子
暗闇の先か手前か沈丁花小塩正子
暗闇の真上に遠き冬の星小塩正子
暗闇に浮かぶ桜や番所跡西方来人
初夏や暗闇に灯の善光寺西方来人
暗闇に男滝女滝の響きをり西方来人
初夏の海暗闇抜けてきらきらと西方来人
ふるさとの暗闇揺らす新樹かな西方来人
死者の来て踊る暗闇西馬音内佐々木靖子
暗闇より出できて踊る彦三頭巾佐々木靖子
連れ立ちて暗闇に消ゆ踊笠佐々木靖子
暗闇の路地から路地へ風の盆佐々木靖子
仏生会真つ暗闇の籠り堂佐々木靖子
梔子をたどりて夢の暗闇へ島崎正彦
暗闇に泣き出してゐる桜かな島崎正彦
神の旅暗闇を裂く夜行便島崎正彦
暗闇に蜜柑一房もぎ取りぬ島崎正彦
梟や瞳閉づれば暗闇に島崎正彦
暗闇の遠く見初むる老の梅志村万香
暗闇の己を沈めゆくオーフェリア志村万香
暗闇に染まりゆくやうモネの花志村万香
暗闇の崩れゆくなり白牡丹志村万香
暗闇の中の椿や静かなり志村万香
風花は暗闇にまたひとつ消え末永朱胤
野焼く火の深みに揺るる真暗闇末永朱胤
春の夜の暗闇にゐて遠にゐる末永朱胤
暗闇のしたたるごとく花の雨末永朱胤
暗闇に入り木蓮の香となりぬ末永朱胤
暗闇の赤い椿とわかるまで鈴木まさゑ
抽斗の奥の暗闇桜貝鈴木まさゑ
暗闇や地中にひそと独活の森鈴木まさゑ
おのづから暗闇と化し山椒魚鈴木まさゑ
暗闇を波のかたちに夜光虫鈴木まさゑ
暗闇に春の余分が集ひけり高橋寛治
暗闇を蹴つてはまぐり父となる高橋寛治
亀鳴いて暗闇亀裂宙の玉高橋寛治
暗闇を蹴りつつ鯨紺碧へ高橋寛治
暗闇の春の鼓動も関数に高橋寛治
暗闇に階層ありて梅匂ふ武井伸子
蟇穴を出で暗闇にぶつかりぬ武井伸子
暗闇を揺さぶつてゐる桜かな武井伸子
暗闇の浅蜊に話しかけらるる武井伸子
暗闇を押し分けてゆく春の鹿武井伸子
暗闇に鬼の赤髪壬生狂言谷原恵理子
何も持たぬ海月美し暗闇に谷原恵理子
暗闇にやがて明るき春の星谷原恵理子
三畳の暗闇に立つ花菖蒲谷原恵理子
石舞台の暗闇より見ゆ夏の空谷原恵理子
どの子にも大き暗闇祭笛近本セツ子
暗闇や記憶のなかの朴の花近本セツ子
ひとりづつ暗闇に佇つ蛍の夜近本セツ子
山女釣くらやみ深く去ににけり近本セツ子
山繭のねむり揺れゐるくらやみに近本セツ子
花の闇潜りてピアノ調律師 辻村麻乃
四階の団地の暗闇花水木 辻村麻乃
夏館書棚に暗き闇ありて 辻村麻乃
羅の女とばつたり出会ふ暗き闇 辻村麻乃
暗晦の狭庭にほのと花さびた 辻村麻乃
トンネルの暗闇歩き出れば初夏同前悠久子
真実の暗闇に光る夏の星同前悠久子
暗闇に山吹の色猫の眼よ同前悠久子
台風の真つ暗闇に怯えし子同前悠久子
暗闇にブルーライトや聖誕祭同前悠久子
暗闇に光る鹿の目湖畔宿豊田静世
暗闇をせつせとつくる蚕かな豊田静世
神の手を離し暗闇蜘蛛の巣へ豊田静世
暗闇を出でしピノキオ虹の中豊田静世
暗闇にアートづくりやはたた神豊田静世
踊場の暗闇に聞く卒業歌中﨑啓祐
清順や暗闇深く花盛り中﨑啓祐
暗闇にモンローの唇春の雨中﨑啓祐
ちる桜暗闇にちるちる桜中﨑啓祐
教室の隅の暗闇黄金虫中﨑啓祐
くらやみに浮かぶ白蓮猫の声中島外男
くらやみに動く人影春の宵中島外男
くらやみにいきなり始まる猫の恋中島外男
くらやみに浮かぶ白梅絵馬の音中島外男
蛍火や真暗闇の畦道を中島外男
夜の女王妖しき闇の美しく西田もとつぐ
夜の女王恣なる闇世界西田もとつぐ
タミーノの魔笛誘ふ闇世界西田もとつぐ
春の闇吾を誘ふ笛の音西田もとつぐ
パパゲーノの子は産まれつぐ春の沼西田もとつぐ
一息に暗闇駆けてえごの花服部さやか
暗闇に命生まるる蝉の殻服部さやか
夏草にうもれ真昼の真暗闇服部さやか
暗闇に手足を残し昼寝覚服部さやか
暗闇を蹴りだしてくる金魚かな服部さやか
暗闇にひかる一本蜘蛛の糸浜岡紀子
暗闇の声はつややか沈丁花浜岡紀子
限りなく花をおもへば暗闇へ浜岡紀子
暗闇を吐き出すものにひきがへる浜岡紀子
暗闇にふれては消ゆるしやぼん玉浜岡紀子
雛の間のくらやみ影の犇きぬ浜田はるみ
透明な暗闇を持ち蝌蚪の国浜田はるみ
暗闇の星汲むごとく白魚汲む浜田はるみ
くらやみの火焔のかたち白牡丹浜田はるみ
暗闇に月の零れて蜘蛛の糸浜田はるみ
暗闇の老いけり白鳥帰りけり佛川布村
暗闇の匂ものせて木の芽風佛川布村
鎌倉の暗闇にある桜かな佛川布村
その下に暗闇のある花筏佛川布村
暗闇に踏む蛞蝓のやうなもの佛川布村
天空にも暗闇のあり猫の恋牧野洋子
暗闇の入江蠢く春の雁牧野洋子
池覗く蝌蚪の暗闇崩れ出し牧野洋子
盛り土の中の暗闇冴え返る牧野洋子
暗闇に浮くはくれんの浄土かな牧野洋子
竹林の暗闇抜けて春の寺宮本郁江
暗闇の眼帯解けば春の雪宮本郁江
暗闇に脱ぎ捨て母の花衣宮本郁江
暗闇の桜並木に雨しきり 宮本郁江
暗闇の鎮守の森や木葉木菟 宮本郁江
暗闇のやがてさくらの朝かな村瀬八千代
暗闇を出で堰越ゆる小鮎かな村瀬八千代
暗闇の島影をぬけ鰆船村瀬八千代
海胆を割る海胆の暗闇奪ひては村瀬八千代
暗闇の磯巾着の花畑村瀬八千代
暗闇坂ぬけて若葉の切通し山内美代子
停電の真つ暗闇に素足かな山内美代子
暗闇坂登りきつたる汗みどろ山内美代子
暗闇は涼し手探り足探り山内美代子
風涼し暗闇坂で待合せ山内美代子
春風や埴輪の目口ま暗闇山下添子
雪解けの道や暗闇の月明かり山下添子
暗闇にスタジアムの灯春北斗山下添子
押し入れの暗闇に棲む扇風機山下添子
暗闇の墨吐く烏賊の孤独かな山下添子
暗闇の土間に田螺の鳴きにけり和智安江
あぢさゐの青き暗闇小糠雨和智安江
暗闇に羽毛ひとひら巣立鳥和智安江
向日葵の百万本の真暗闇和智安江
しばらくは白の暗闇雪しまく和智安江
暗闇や春の初めの土匂ふ浅見百
暗闇にとけこんでゐる恋の猫浅見百
暗闇に親鳩も眠る抱卵期浅見百
暗闇の薄墨桜散り急ぐ浅見百
耳鳴りの春の怒涛の真つ暗闇浅見百
暗闇に厨の音のあたたかし あべあつこ
暗闇の奈落に墜ちる春の夢 あべあつこ
暗闇を恋ひ春昼の深き森 あべあつこ
暗闇の部屋に踏みたり福の豆 あべあつこ
大鴉暗闇坂を越えて春あべあつこ
暗闇の闇は成長五月晴れ阿部暁子
暗闇にただただ泣いて青田風阿部暁子
暗闇にママのおつぱい五月尽阿部暁子
暗闇に寝相がふたつ夏来る阿部暁子
暗闇を抜けし瞬間アイスクリーム阿部暁子
暗闇に遊び疲れて夜鷹啼く新木孝介
蝙蝠の暗闇つつむ翼かな新木孝介
暗闇の網戸に雨の気配あり新木孝介
暗闇に穴をあければ月あかり新木孝介
暗闇の庭のそこらの虫の声新木孝介
白れんの葩おほふ暗き闇五十嵐孝子
暗闇の止むなき雨の花ちらし五十嵐孝子
紫陽花の庭の暗闇濃青濃し五十嵐孝子
蓮の花千の暗闇秘めて今五十嵐孝子
暮の春駅の暗闇深夜バス五十嵐孝子
暗闇の桜ひらひら降りてくる石井圭子
暗闇を出て来たばかり蜂ひかる石井圭子
蛇穴を出て暗闇の人間界石井圭子
暗闇をこはごは覗く朧月石井圭子
暗闇に満ちての沈丁花の香り石井圭子
くらやみのごとき猟師とすれちがふ岩淵喜代子
目を閉ぢてゐれば暗闇西行忌岩淵喜代子
灯篭の中の暗闇飛花落花岩淵喜代子
太陽は昼の暗闇蝌蚪生まる岩淵喜代子
蝌蚪に蝌蚪つづく暗闇方丈記岩淵喜代子
暗闇にひびく修二会の沓の音宇陀草子
二月堂暗闇焦がすお松明宇陀草子
田螺鳴く限界村の真つ暗闇宇陀草子
山桜薄暗闇に浮かびくる宇陀草子
暗闇に眼がなれてきし田植道宇陀草子
古民家の暗闇きしむ追儺かな及川希子
過密都市暗闇てらす春の月及川希子
暗闇の地震に身震ふ春の海及川希子
暗闇にかがり火ゆらぐ薪能及川希子
暗闇に湧き出る螢手にともす及川希子
秒針の音して春の真暗闇大豆生田伴子
暗闇と薄暮のあはひリラの花大豆生田伴子
花のころ暗闇の部屋私す大豆生田伴子
しばらくは暗闇がいい花疲れ大豆生田伴子
暗闇へジャズ流れ来る暮の春大豆生田伴子
暗闇のよもつひらさか蛙鳴く岡本惠子
薔薇園をぱたりと閉ぢぬ真暗闇岡本惠子
しらじらと蝿帳のあり暗闇に岡本惠子
鵜篝の去りて暗闇残しけり岡本惠子
白日は暗闇に似る海紅豆岡本惠子
暗闇の一滴実梅落ちにけり尾崎淳子
畦焼きて暗闇の月持ち帰る尾崎淳子
川底の暗闇揺らし蝌蚪の紐尾崎淳子
暗闇と光を重ね白牡丹尾崎淳子
暗闇に犬来て座る青葉の夜尾崎淳子
暗闇に泡と消えたきソーダ水鬼武孝江
暗闇で扉叩いて春の夢鬼武孝江
暗闇で手探り拾ふ落し文鬼武孝江
暗闇の先のその先沙羅の花鬼武孝江
暗闇の扉開いて夏に入る鬼武孝江
暗闇を出て熊の仔や天聳ゆ河邉幸行子
霾や鰊番屋の小暗闇河邉幸行子
暗闇に戻りて灯す花衣河邉幸行子
山椒魚山に帰りて山の闇河邉幸行子
瞑りては暗闇祭りひき寄せる河邉幸行子
洗濯機の中の暗闇利休の忌川村研治
蟻穴を出でて暗闇忘れけり川村研治
暗闇に象のねむれる春の月川村研治
怖れつつ悼みつつ花の暗闇川村研治
花過ぎし樹の暗闇は時間かな川村研治
暗闇で刃紋眺むる初夏の夜木佐梨乃
夏の星はるか豊かに沙漠闇木佐梨乃
暗闇に水滴落ちて雲の峰木佐梨乃
風光る笑顔の下の暗き闇木佐梨乃
暗闇が小さく凝つて日の盛り木佐梨乃
木の虚に暗闇のぞく立夏かな木津直人
新樹より暗闇の粒湧きゐたり木津直人
器の下はいつも暗闇燕舞ふ木津直人
暗闇をくぐりて細し四十雀木津直人
暗闇にひたす手のあり夏の溪木津直人
暗闇の質に爪塗る余寒かな栗原良子
やはらかや暗闇さへも春めけり栗原良子
朝寝とや暗闇高く揚がる夢栗原良子
天鵞絨の暗闇順に夏の明け栗原良子
暗闇に家軋みけり蚊帳の内栗原良子